日本リウマチ財団ニュース

No.168号 2021年9月号

国際学会報告

日本リウマチ財団ニュース168号に掲載しています「欧州リウマチ学会(EULAR) 2021学会速報 」のロングバージョンです。

田巻 弘道氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長

責任編集:岡田 正人
医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長

EULAR 2021は本来フランス・パリで開催されるはずであったが、昨年と同様にCOVID-19の影響により、バーチャルカンファレンスとなった。昨年は準備期間が短かったということもあり、トラブルも所々見受けられたが、今回は2度目ということもありスムーズに行われた印象だ。またセッションの内容もより充実していた印象があり、録画されたセッションのアップロードが早かったこともとても良かった。今回のEULARの発表の中から、筆者が独断と偏見で興味深いと感じた内容をいくつか取り上げる。

1.EULARの推奨

EULARの推奨やpoints to considerは今やさまざまな局面へ広がりをみせている。今回、EULARのセッションの中でも多数が紹介されていた(表1)。オンライン版では、誌面で紹介したものの詳細並びに別の推奨も紹介する。

EULAR2021で取り上げられていたEULAR recommendations, Points to consider(表1)

 タイトル

EULAR recommendations on the management of RMDs in the context of SARS-CoV-2: an update of the process

EULAR points to consider on COVID-19 pathophysiology and immunomodulatory therapies from the Rheumatology Perspective

EULAR recommendations/point to consider to consider for the measurement and reporting of interferon activity in clinical research and future clinical application

EULAR recommendations for the management of the autoinflammatory disease(Type-I Interferonopathies, IL-1 mediated and management suspected Macrophage Activation Syndrome/Hemophagocytic Lymphohistiocytosis)

EULAR Task Force to establish the evidence base and need for a EULAR Women’s Network for Clinical Academics

EULAR points to consider for minimal reporting requirements in synovial tissue clinical application and research in rheumatology
EULAR points to consider RMDs & Work – Policy recommendations for improved working conditions
Development and Validation of a EULAR disease activity score in adult onset Still’s Disease: the “DAVID” project
EULAR points to consider for conducting clinical trials in individual at risk for Rheumatoid Arthritis
EULAR recommendations for cardiovascular risk management in RMDs(including SLE and APS)
EULAR recommendations for the management of difficult to treat rheumatoid arthritis
EULAR points to consider on the assessment of competencies in Rheumatology Training
EULAR points to consider therapeutic Drug monitoring of Biopharmaceuticals in Rheumatology
EULAR recommendations for the report of musculoskeletal ultrasound studies in Rheumatology
EULAR recommendations for the use of imaging to guide interventional procedures in patients with RMDs
EULAR-PReS standardized procedures for ultrasound imaging in paediatric rheumatology
EULAR recommendations for the implementation of self-management strategies in patients with inflammatory arthritis

a.EULAR points to consider for therapeutic drug monitoring of biopharmaceuticals in inflammatory RMDs(表2)

 Overarching principles
A. 薬物動態、薬物力学の原則が生物学的製剤のTDMの解釈の元となる
B. TDMとは薬物動態のデータ(生物学的製剤の血中濃度と好ましくはADAb)の原則を活用して患者個人の治療を最適化することを言う
C. TDMには大きく二つのカテゴリーがある。Proactive TDMとは臨床状況にかかわらず検査をスケジュールすることを指し、reactive TDMとは特定の臨床状況において検査を行うことを指す
E.
F.TDMは患者と医療従事者との協働意思決定の一部であるべきであり、患者の経験、好みを組み入れるべきである

TDM: therapeutic drug monitoring

RDM: rheumatic and musculoskeletal disease

ADAb: anti-drug antibodies

Points to consider Grade LoE LoA
1. 生物学的製剤の血中濃度の測定は実証される検査法で測定すべきである C 2b 9.9
2. ADAbの測定は実証されている検査法で測定すべきであり、経時的には同じ方法で計測を繰り返すべきである。測定は生物学的製剤の血中濃度と一緒に測定し解釈すべきである。 B-C 2b 9.8
3. 生物学的製剤の血中濃度は用量、投与間隔、最終投与日に依存する。生物学的製剤の血中濃度を解釈する際には、患者特異的な薬物動態に影響を及ぼす因子を考慮すべきである。その因子としては、体重、MTXの併用、疾患活動性と治療のコンプライアンスである B 2b 9.6
4. 生物学的製剤の血中濃度と臨床反応には関連がある。したし、多くの適応症で、多くの生物学的製剤では最適な範囲を推奨するにはもっとデータが必要である
関節リウマチに対するアダリムマブ≧1mg/Lで臨床効果があり、8mg/Lまでは効果の改善があるが、それ以上は効果の改善はない
B 2b 9.6
5. 炎症性の筋骨格疾患のマネージメントにはルーチンにproactiveTDMを用いることは推奨しない D 2b 9
6. 治療開始後3ヶ月までの生物学的製剤の血中濃度の測定は将来的な効果を予測するために考慮しても良い B 2b 8.8
7. Reactive TDMを炎症性筋骨格疾患のマネージメントで考慮しても良い B 2b 9.5
8. 生物学的製剤の血中濃度測定は血中濃度が高い患者を同定して、減量が適応となるかもしれない患者を同定するために考慮しても良い B 2b 9.3
9. 生物学的製剤の血中濃度測定は臨床的に無反応であることの理解を促進するために考慮すべきである B 2b 9.5
10. ADAbの測定は臨床的に反応がない場合に血中濃度の測定とともに、免疫原性のある生物学的製剤の場合に考慮すべきである B 2b 9.4
11. ADAbの測定は過敏性反応の場合に、主に点滴製剤に関連して考慮すべきである B 2b 9.4
12. ADAbは注射部位反応の場合には推奨されない D 5 8.8
13. それぞれの地域での状況と標準的なケアに従って、TDMの費用対効果を考慮すべきである D 2c 8.8

炎症性腸疾患においては生物学的製剤の治療における血中濃度のモニターに関してはデータが比較的多く、ガイドラインが既に出ていたり、専門家によるコンセンサスが発表されていたりする1,2)。炎症性腸疾患では、特にTNF阻害薬での有用性が確立しており、臨床の状況に応じて、生物学的製剤の血中濃度や抗薬物抗体を測定することが勧められている。リウマチ領域ではまだまだデータが少ない。今回発表されていたEULAR points to considerでは、臨床状況に応じて薬物血中濃度測定を考慮しても良いこと、治療開始後3ヵ月以内の薬物血中濃度測定を将来的な治療反応予測のために考慮しても良いこと、薬物血中濃度の高い患者を同定して薬剤減量を考慮することなどが記載されている。また、関節リウマチにおいてアダリムマブは1mg/L以上で効果が見込め、8mg/Lまでは治療反応性の改善がみられるもののそれ以上では改善がない可能性についても言及されていた。

b.EULAR recommendations for the implementation of self-management strategies in patients with Inflammatory Arthritis(表3)

 Overarching principles LoA
A. セルフマネージメントとは自身の病気を学ぶことや自身の健康や治療方針の共同意思決定のプロセスに能動的な役割を果たすことを意味する 9.5
B. 自己効力感(望む結果を達成する目的で行動を行う個人の自信)は関節炎の人生の様々な側面に肯定的な影響を持つ 9.6
C. 患者組織はセルフマネージメントの貴重なリソースを提供していることが多く、医療従事者との共同sしている。それが故に、患者組織は患者の利益となる 9.4
推奨 Grade LoE LoA
1. 患者がチームの能動的なパートナーとなることや医療従事者や患者団体がケアの道のりのあらゆる側面と関連していることに気づくように、医療従事者は奨励すべきである D 5 9.5
2. 患者教育が開始地点であるべきであり、全てのセルフマネージメントの介入を支えるものである A 1A 9.5
3. 問題解決やゴールの設定、また関連ある個人で可能な場合は認知行動療法を含むセルフマネージメントの介入は患者をサポートする日常ルーチン臨床に組み込まれるべきである A 1A 9.1
4. 医療従事者は診断時からその後の病気の経過中いつでも身体活動を促進すべきである A 1A 9.9
5.よくある合併症をよりよくマネージするために、ライフスタイルのエビデンスに基づいた助言が行われるべきであり、医療従事者によって健康的な行動を促すべきである D 5 9.6
6. 精神的により良い状態にあることで、より良いセルフマネージメントが可能であり、そのため、心の健康に関しても定期的に取り組む必要があり、必要であれば適切な介入が行われる必要がある D 5 9.4
7. 医療従事者は患者と仕事のことや適切で必要な際には助けを得られる指針に関して話し合うようにすべきである D 9.6
8. デジタルヘルスケアは患者のセルフマネージメントの助けとなりえる。適切で手に入るのであれば、デジタルヘルスケアはセルフマネージメントのサポートに含めるように考慮すべきである A 1B 9.3
9. 医療従事者はセルフマネージメントをサポートし、最適化する為に手に入るリソースを患者に示す為にも知っておくべきである D 5 8.7

関節リウマチや脊椎関節炎の分野では、薬物療法の進歩が目覚しく、20年前と比較するとこれらの疾患に対する治療戦略は劇的に変化して来た。日常の診療ではどうしても、医学的な側面の中でも特に関節炎そのもののみにフォーカスしがちであり、薬剤のことのみに集中してしまう事が多い。しかしながら、関節炎のケアの中では、病気そのもの以外に対する影響も考えていく事でより良いアウトカムを目指す事ができる。心理的や身体的な疾患からの影響に対応をしていく際に、患者さん自身が病気のことを理解し、セルフマネージメントを取り入れることでよりよく日常診療でカバーしきれない部分に対しての助けとなる。EULARから初めてのセルフマネージメントの推奨が出たのでここに紹介する(3)。この推奨に関しては、EULARの後にすぐにpublishされたので興味のある方は本文も参考にされると良いであろう。

c.EULAR Recommendations for Cardiovascular Risk Management in Rheumatic Musculoskeletal Diseases (including SLE and APS) (表4)

Overarching principles

推奨文
CVDのリスクが上昇することならびに疾患活動性の減少がCVDリスクを減少させることを臨床医は知るべきである。
リウマチ医はプライマリーケア医、内科医、循環器内科医ならびにその他の医療職種と協力し、CVDリスクを評価しマネージする責任がある。
全ての個人は定期的にCVDリスク因子のスクリーニングを受けるべきである。リスク層別化にはスクリーニングと厳格なCVDリスクのコントロールを含むべきである。
CVDリスク評価は診断の6ヶ月以内に推奨される。
CVDリスクのマネージメントには患者教育、CVDリスクのカウンセリング、治療コンプライアンス、生活スタイルの修正が重要である。

SLE/APS

推奨文 LoE GoR

SLEやAPSの患者では、伝統的な心血管リスクと疾患関連のリスク因子の徹底的な評価がリスク因子の改善を導くために推奨される

2b

D

SLE患者では、血圧を下げれば下げるほどCVDイベントの率は低くなり、130/80mmHg未満の血圧の目標が考慮されるべきである 2b C
ループス腎炎の患者では、UPCR>500mg/gや高血圧のある全ての患者にACE阻害薬あるいはARBが推奨される 5 D
SLEやAPSの患者では脂質の治療は一般人の推奨に従うべきである 5 D
SLE患者では、個人個人の心血管リスクプロフィールにより、低用量アスピリンを含む一般人と同様の予防策の候補者となるべきかもしれない。 2b D
ヒドロキシクロロキンによる治療(禁忌がない限り、全てのSLE患者に推奨されている)はCVDイベントのリスクを減らすかもしれない 2b B

痛風、血管炎、その他のリウマチ性、筋骨格疾患

推奨文 LoE GoR
一般人むけの心血管イベント予測ツールを使用することが推奨される 5 D
ANCA関連血管炎では、フラミンガムスコアは心血管リスクを低く見積もるかもしれない。EUVASモデルからの情報が変更可能なフラミンガムリスク因子を補強するかもしれず、考慮に入れることが勧められる 2b D
血圧、脂質マネージメントは一般人の推奨に従うべきである D
抗血小板薬を一時予防に標準的に用いることは勧められない 2b D
痛風の患者では、利尿薬は避けるべきである 5 D
痛風の患者では、尿酸値を6mg/dL未満にすることを推奨する 2b C
全身性強皮症の患者では、ベータブロッカーは避けるべきである 5 D
ANCA関連血管炎患者では、寛解導入、寛解維持療法は心血管リスクを減らす 2b D
GCAの患者では、再発のリスクとステロイドをなるべく最小にするバランスが取れるステロイドレジメンが心血管リスクを減らすかもしれない 2b D

2016年に関節リウマチやその他の関節炎における心血管リスクのマネージメントの推奨がEULARから発表されていた(4)。今回は、SLE、抗リン脂質抗体症候群、血管炎、痛風患者における心血管リスクのマネージメントの推奨が発表されていた。まだ、この推奨に関しては正式に論文になっていないのでその点を踏まえてお読みいただけたらと思う。まだまだ、データが出揃っていない分野であるものの、患者さんの長期予後に関してはしっかりと関わってくる部分である。ある程度、生活指導や薬物療法にて改善を認めることが可能であり、しっかりと外来で管理していくことが大切となる。定期的に必要なリスクアセスメントを行う、あるいは、行われているそして必要な介入が行われていることを確認することが大切である。

個人的に興味を惹かれた発表や研究結果

a.GRAPPAからの推奨

今回の大きな話題の一つとしてGRAPPA(Group for Research and Assessment for Psoriasis and Psoriatic Arthritis)の治療推奨が挙げられる。2015年以来の改訂となる。2015年の推奨で領域別に治療の推奨が出ていたところは引き続き、今回の推奨でも末梢関節炎、乾癬、付着部炎、指趾炎、爪、軸性病変、合併症という形が踏襲されているが、新しい推奨では合併症の項が二つに分かれた。ぶどう膜炎や炎症性腸疾患の関連する合併症と、乾癬患者にみられるその他の合併症の二つである。また、バイオシミラー並びに減量中止へのポジションステートメントも含まれている。実際の治療の推奨を表5に示す。生物学的製剤の強い推奨を以下に示す。TNF阻害薬はDMARD未治療、DMARD治療抵抗性、生物学的製剤治療抵抗性の末梢関節炎、生物学的製剤未治療、生物学的製剤治療抵抗性の体軸性病変、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎で強い推奨となっている。IL-12/23阻害薬はDMARD未治療、DMARD治療抵抗性の末梢関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪乾癬、クローン病(エタネルセプトを除く)、潰瘍性大腸炎(エタネルセプトを除く)で強い推奨になっている。IL-17阻害薬はDMARD未治療、DMARD治療抵抗性、生物学的製剤治療抵抗性の末梢関節炎、生物学的製剤未治療、生物学的製剤治療抵抗性の体軸性病変、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪乾癬で強い推奨となっている。IL-23阻害薬はDMARD未治療、DMARD治療抵抗性、生物学的製剤治療抵抗性の末梢関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪乾癬で強い推奨となっている。JAK阻害薬は、DMARD未治療、DMARD治療抵抗性、生物学的製剤治療抵抗性の末梢関節炎、生物学的製剤未治療、生物学的製剤治療抵抗性の体軸性病変、付着部炎、指趾炎、乾癬で強い推奨となっている。PDE4阻害薬は、DMARD未治療の末梢関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪乾癬で強い推奨となった。それぞれどの領域で推奨されているかを押さえておくことが日常臨床でも大切となってくる。

表5 GRAPPA 治療推奨2021 update

Overarching principles 患者同意度 医師同緯度
1. 乾癬性関節炎に対する最適な評価と治療アプローチに関する最新のデータを含む今回の推奨は共同意思決定を強化するために医療文脈上で考慮することを示している 100 96.3
2. すべての乾癬性関節炎患者の究極の治療目標は

  1. a)すべての領域で可能な限り低い疾患活動性を達成すること。寛解や低疾患活動性や最小疾患活動性といった定義が受け入れられるようになると、これらが目標に含まれるようになる
  2. b)身体機能を最適な状態にする、生活の質を改善し、健全であること、そして可能な限り最大限に構造的損傷を防ぐこと
  3. c)未治療の活動性疾患や治療そのものからの合併症を避けるあるいは最小限にすること。
87.5 96.3
3. 乾癬性関節炎患者の評価にはすべての疾患領域を考慮する必要がある。末梢関節炎、体軸性病変、付着部炎、指趾炎、乾癬、乾癬爪病変、ぶどう膜炎、炎症性腸疾患を含む。病気からの痛み、身体機能、生活の質、構造的損傷の影響を調べるべきである 87.5 94.4
4. 包括的な病歴と身体診察を伴う患者報告の指標を理想的には臨床評価には含むべきであり、多くの場合は血液検査、画像検査(例:X線、超音波、MRI)によって補完される。可能な際には毎回、最も受け入れられている指標で乾癬性関節炎で有効性が実証されているものを活用すべきである 87.5 95
5. 合併症や関連する病気を考慮すべきであり、その疾患に対するアプローチや治療に対する影響は適切に取り組まれるべきである。そのような病気とは、肥満、メタボリック症候群、心血管病、うつ、不安、肝疾患(例:NAFLD)、慢性感染症、悪性腫瘍、骨疾患(例:骨粗鬆症)、中枢性感作(例:線維筋痛症)やリプロダクティブヘルスを含む。多職種、多専門職による評価やマネージメントが患者個人にとって一番利益になるかもしれない 87.5 93.8
6. 治療決定は個別化される必要があり、患者と医療者でともに行う。患者が治療に関するオプションの最良の情報を提供された上で、治療は患者の好みを反映すべきである。疾患活動性、以前の治療、構造損傷などの予後因子、合併症、コストや利便性、患者の選択といった患者要因を含むさまざまな要素により治療選択は影響を受けるかもしれない 100 93.2
7. 理想的には患者は迅速に評価され、適切な専門家の定期的な評価を提示され、治療目標達成のため治療調整を必要に応じてなされるべきである。早期診断と治療が、利益があるであろう 100 95
バイオシミラーに関するposition statement 患者同意度 85.7% 医療者同意度 92.5%
バイオシミラーは規制当局の妥協なき評価を通して承認されるべきである。BiomimicsやIntended Copiesはバイオシミラーではない。患者ならびに医療者の徹底した理解を確かにするため、患者と医療者の教育を続けていく必要があるかもしれない
バイオシミラー製品の最初の承認後の定期的な再評価が、品質を継続的に確かなものにするために重要かもしれない
たとえ、乾癬性関節炎におけるバイオシミラーの試験がない場合でも、乾癬性関節炎の外挿は許容できる。最初の承認プロセスの一部ではなかった際には、乾癬性関節炎への追加試験を行うことができることが理想である
患者と医療者ともにスイッチの決断にはかかわらなければならない
医療品安全性監視は極めて重要である。特定の薬品とバッチを追跡可能にする命名規則が必要である
多切り替えに関しては現在進行形で厳格に研究する必要がある
バイオシミラーで節約されたお金は、より多くの人へのアクセスを改善するために利用されるべきである
免疫原性は潜在的な懸念であり現在進行形でモニターするべきである
 治療の減量や中断に関するposition statement 患者同意度 71.4% 医療者同意度 91.9%
治療目標(例:理想としては寛解、または寛解が達成できないような場合には低疾患活動性)を達成した患者では、減量や究極的には治療中止を考慮しても良いかもしれない
減量による潜在的な利点としては有害事象のリスクの減少や、薬剤費が安くなることかもしれない
治療を減量する決断は、患者の十分な理解と患者が直接かかわることで行うべきである
患者と医療者の協議で各個人での最適な減量へのアプローチ(例:用量を減らす、投与のインターバルをあける、変更を行う時間のインターバルなど)がわかるであろう

患者と医療者は潜在的な減量に伴う不利益も理解する必要がある

 ー疾患活動性が再燃すること、そして治療目標を再度達成するのがすぐではない可能性、

  また治療目標が再度達成されないこともあるかもしれないこと

 ー現時点では以下のようなことは予測ができないこと。どの患者が減量に成功したり、

  どの患者が完全にすべての薬剤を中止にできたり、どの患者が減量できないなど

 ー末梢関節炎など活動性のある領域にフォーカスしているが、効果のある治療の減量がその

  他のアウトカム、例えば全身性の炎症からと考えられている心血管病のリスクの増大など

  にどのように影響を及ぼすかに関しては知られていない

 図 GRAPPA治療推奨2021 update(聖路加国際病院・川合聡史氏の資料を改変 PDF

b.COVID-19関連の情報

SARS-Cov2の話題にも事欠かなかった。この領域においては常に新しい情報が出てくる為、この原稿が出版される頃にはすでに古い情報になっている可能性が高いが、日本でのワクチン接種が急速に進む中で、日常診療においては患者さんとの会話の中でやはり多くを占める話題であることは間違いない。リウマチ性疾患の患者さんに関するデータに関してだいぶ出揃ってきた感がある。今回のEULARで取り上げられていたものとしては、まず、初日のPlenary session でGRA(Global Rheumatology Alliance)のデータが取り上げられていた。EULARでの発表の後にすぐにAnnals of the Rheumatic Diseasesにて正式にPublishされている為、詳細に関してご興味をお持ちの方は、その論文を読んでいただくことが良いかと思う(5)。GRAのコホートは、全世界的にCOVID-19に感染したリウマチ性疾患を持つ患者のデータを医師がオンラインで入力し作られたコホートであり、今回の発表はリウマチ性疾患患者のCOVID-19の重症化のリスクに関しての解析であった。やはり、今まで報告されていたように、リウマチ性疾患のない方のコホートからわかってきていたような、並存合併症のリスクがこのリウマチ性疾患を持つ方のコホートからも見て取れる(6)。今回EULARで発表があったのは、COVID-19発症時に、生物学的製剤あるいは標的型合成抗リウマチ薬を使用している2869名の関節リウマチ患者さんを対象に、TNFα阻害薬を参照として、どの薬剤が重症化と関連があるか解析した。日本では保険適用ではなく関節リウマチへの使用はできないが、リツキシマブは人工呼吸器使用、死亡、入院などのアウトカムで統計学的に有意にTNF阻害薬よりもリスクが上昇することが示された。また、JAK阻害薬においても、同様に統計学的に有意に人工呼吸器使用、死亡、入院などのアウトカムのリスクがTNF阻害薬よりも上がることが示された(表6)。

Late Breaking Abstractでは、リウマチ性疾患を持つ患者に対するワクチン接種に関しての発表があった。イスラエルでの前向き観察試験である。こちらも既に論文化されているので詳細が知りたい方はぜひ原著をご一読されることをお勧めする(7)。18歳以上の、関節リウマチ、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎、全身性エリテマトーデス、全身性血管炎、特発性筋炎の患者と、コントロール群として一般人の免疫抑制剤を使用していない人が選ばれている。リウマチ性疾患を持つ患者686人と、コントロール群121名の2回目のmRNAワクチン摂取後のスパイクタンパクに対する抗体価を測定しており、予め定義づけされた抗体価の上昇が見られた患者を抗体陽転と定義している。様々な免疫抑制剤や生物学的製剤、標的型合成抗リウマチ薬などのうち、抗体陽転率を低下させた薬剤としては、リツキシマブ、アバタセプト、ミコフェノール酸モフェチル、ステロイドなどは抗体陽転率が低くなった。一方、メトトレキサート、TNF阻害薬、IL-6阻害薬、IL-17阻害薬、JAK阻害薬などでは統計学的に有意な陽転率の低下はなかった。作用機序からも当然推測されるが、リツキシマブでは特に抗体の陽転率が低く、最終のリツキマブ投与からの期間が長くなればなるほど抗体の陽転率は徐々に改善していくものの、1年の段階でも52%程度であった。ワクチン接種前後の病勢のマーカーもフォローアップしており、関節リウマチ、SLE、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎の疾患活動性指標は多くの患者さんでは変化なく、大体改善と悪化を示す割合が同等の数いるという結果であった。全体的に見ると、ワクチンが病勢に与える影響はあまりないと感じさせる結果であった。

生物学的製剤や標的型合成抗リウマチ薬の使用とCOVID-19のアウトカム (表6)

 COVID-19アウトカム アバタセプト OR(95% CI) リツキシマブ IL-6阻害薬 JAK阻害薬 TNF阻害薬
入院 1.18
(0.76-1.82)

4.53
(3.32-6.18)

0.84
(0.53-1.33)

2.40
(1.78-3.24)

参照値

入院かつ酸素/人工呼吸器あるいは死亡 1.12
(0.70-1.81)
2.87
(2.03-4.06)
0.72
(0.43-1.20)
1.55
(1.04-2.18)
参照値
死亡 1.46
(0.72-2.89)
4.57
(3.32-9.01)
1.13
(0.50-1.20)
2.04
(1.58-2.65)
参照値
人工呼吸器 1.41
(0.94-2.10)
4.05
(3.08-5.33)
0.75
(0.51-1.10)
2.03
(1.56-2.62)
参照値
人工呼吸器あるいは死亡 1.14
(0.78-1.66)
4.44
(3.39-5.82)
0.74
(0.50-1.09)
2.028
(1.56-2.61)
参照値

c.Men’s reproductive health

最後に、ここで取り上げておきたいのはリプロダクティブヘルスについてである。
この領域に関しては、欧州や米国でも2016年、2020年にpoints to considerや推奨が出されている分野である。ポスター発表(POS0022)のセルトリズマブに曝露した炎症性疾患(関節リウマチ、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎、乾癬、クローン病)の1,392名を前向きに観察した研究では、ステロイドはpregnancy lossには保護的に働く一方で、低体重出生児や早期産のリスク因子として同定された。また、クローン病はpregnancy lossのリスク因子、関節リウマチは低体重出生児のリスク因子、NSAIDsはpregnancy lossのリスク因子として同定されるなど、興味深い結果が報告されていた。
2020年の米国リウマチ学会のリプロダクティブヘルスガイドラインでは男性の薬物使用と妊娠に関して述べられているが、関節炎をもつ男性の妊娠に関する報告もあった。OP0211とOP0212である。オランダの8つの病院からのデータの後方視的横断研究である。41歳以上の関節炎(関節リウマチ、JIA、脊椎関節炎)のある628名を対象にしたオンライン上で行ったアンケートの結果では、41歳以降に関節炎と診断された男性の子供の数は、一般人と比較しても変わりはないのに対して、それよりも若い年齢で関節炎と診断された患者では、41歳以降に関節炎と診断された患者よりも子供の数が少なかった。これ自体はさまざまな要因が影響して起こりうることであり、必ずしも疾患そのものの影響のみであるかはわからないが、今後要因に関してさらなる研究が必要であろう。また、母体の年齢、妊娠の年度で補正した後も、関節炎診断後の妊娠では流産のリスクが高いことが示された(オッズ比1.71[95%信頼区間1.04-2.81])のは非常に興味深いデータである。

d.関節リウマチと食事

今回のEULARのセッションの中で、明日からすぐに活かせる内容を伝えてくれていたセッションに“What should I tell my patients with RMDs about diet?”があった。日常診療で患者さんと向き合う中で食事に関する質問を聞かれることは皆さんも多く経験することではないかと思う。この質問に対して、自信を持って、エビデンスに基づいて答えられるでしょうか。
疫学的な研究において、食塩、当分、赤身の肉、オメガ3脂肪酸などと、関節リウマチの発症や疾患活動性との関連するデータが出ている。
このレクチャーでは、8つのTake Home Messageが示されている。

  1. 1.食事は炎症を減らす強力な手段である
  2. 2.可能であれば、脂身の多い魚や抗酸化物質の豊富な地中海食を選ぶ
  3. 3.オメガ3脂肪酸の多い食事は抗炎症である
  4. 4.向炎症性の食べ物は避け、食塩や糖質の多い飲料は減らす
  5. 5.繊維分の多い食べ物、血糖インデックスの低い食べ物を好むようにする
  6. 6.コーヒーやアルコールは適量に
  7. 7.適切であればビタミンDやその他のビタミン補充を考慮する
  8. 8.健康的なBMIを維持し、定期的に運動する

そのほかにもさまざまな興味深い発表がEULARでみられた。文字数の都合上、伝えられないのが残念である。今後のより良いリウマチ膠原病疾患の治療を実現するために有益な学会であった。

参考文献
  1. (1)Feuerstein JD, Nguyen GC, Kupfer SS, et al. American Gastroenterological Association Institute Clinical Guidelines Committee. American Gastroenterological Association Institute Guideline on Therapeutic Drug Monitoring in Inflammatory Bowel Disease. Gastroenterology. 2017 Sep;153(3):827-834. doi: 10.1053/j.gastro.2017.07.032.
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