日本リウマチ財団ニュース

NO. 172号2022年5月号

国際学会報告書

日本リウマチ財団ニュース172号に掲載しています「第7回国際強皮症学会(SSWC 2022)学会速報」のロングバージョンです。

第7回国際強皮症学会(Systemic Sclerosis World Congress: SSWC 2022)

岩田 太志 氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center フェロー
責任編集:岡田 正人 編集員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長

2022年3月10日から12日まで第7回国際強皮症学会(Systemic Sclerosis World Congress: SSWC 2022)が開催された。コロナウイルスを鑑みオンラインでのVirtual congressだったが、予め録画されたプレゼンテーションについてLiveで議論するというのが主な形式でOn demand配信も充実した内容であった。学会で直接顔を合わせられない寂しさはあるものの、逆に自宅からリラックスして知識をupdateすることができ非常に有意義であった。強皮症は、抗線維化薬のニンテダニブ(NINT)に始まり、FDAでトシリズマブ(TCZ)、日本ではリツキシマブ(RTX)が承認されるなど近年大いに盛り上がりをみせている。今回、パリ大学Cochin HospitalのYannick Allanore先生の「Two years in review: Clinical aspects」と題した、この2年の臨床面の重要な論文を中心に、膠原病のコの字も知らない妻に強皮症の面白さを日々熱弁している私の独断と偏見で最新の話題、新規治療薬の知見を簡潔に紹介する。図などの詳細に関しては、是非参考文献を参照されたい。

1. 強皮症による肺高血圧(SSc-PAH)

①DETECT algorithmの感度・陰性尤度比(1)

強皮症の肺高血圧の診断のために、どのタイミングで右心カテーテルをすべきかは決して簡便な検査ではないので悩ましい問題であった。2015年にPAHに関してESC/ERCガイドラインが作成されたが強皮症に特化しているものではなく、より簡便で強皮症特異的なものとしてDETECTアルゴリズムが開発され、今回その感度・陰性尤度比の高さが示された。DETECTアルゴリズムはアプリでダウンロード出来るので、ぜひご活用頂きたい(2022年4月現在 日本ではダウンロード出来ず)。

②SSc-PH-ILDの予後(2)

エンドセリン受容体拮抗薬などの登場により肺高血圧全体の予後は非常に改善している中、膠原病関連肺高血圧(CTD-PAH)、そしてその中でもSSc-PAHは未だ予後の改善に課題が残されている。強皮症はニース分類における第1群(肺動脈性)の他、第3群(肺疾患に伴う)の肺高血圧(SSc-ILD-PH)も起こり、SSc-PAHよりも生存率が低く、今後この患者群により注意が払われていく必要が浮き彫りになった。

③強皮症における拡張能障害とMortality(3)

強皮症ではmicrovasculopathyや線維化により左室収縮障害が生じることは既知の通りだが、EFが低下していなくても拡張能障害が独立した予後因子になることが示された。この研究では18%に拡張能障害があり、10年生存率は30.5%(vs 40.8%)という結果であった。 今後は左室収縮能やPAHの他、拡張能障害(E/e’>14, 中隔e’<7cm/s, 外側e’<10cm/s, TRV>2.8, LA volume index>34ml/m2)の所見などにも注意が必要だろう。

2. 強皮症による間質性肺炎(SSc-ILD)

①初期ILDの評価にはHRCTが重要(4)

非Raynaud症状から2年未満の早期dcSScを対象としたPRESS registryで, 呼吸機能検査(PFT)とHRCTのILDの検出頻度を比較したものである。HRCTをゴールドスタンダードとして、PFTは所見を組み合わせても感度は85%, 陰性尤度比66%程度であり、除外にはPFTのみでは不十分といえる。日本ではCTの閾値も低いので、呼吸器症状が無くとも診断後早期にHRCTで一度評価する必要性があるといえるだろう。

②SSc-ILDの自然史: 約30%がprogressor(5)

lcSSc, dcSScを共に50%含み, 約半分が抗Scl-70抗体陽性のSSc-ILD患者2259人の肺機能の自然史を見たもので, 約30%がprogressorであり、その予測因子として男性, mRSSが高い事, GERDや嚥下障害があることが特定された。免疫抑制や抗線維化薬の有効性がわかってきた今、このprogressive ILDを早期に診断することが今後重要になるだろう。

2. 強皮症による間質性肺炎(SSc-ILD)

①初期ILDの評価にはHRCTが重要(4)

非Raynaud症状から2年未満の早期dcSScを対象としたPRESS registryで, 呼吸機能検査(PFT)とHRCTのILDの検出頻度を比較したものである。HRCTをゴールドスタンダードとして、PFTは所見を組み合わせても感度は85%, 陰性尤度比66%程度であり、除外にはPFTのみでは不十分といえる。日本ではCTの閾値も低いので、呼吸器症状が無くとも診断後早期にHRCTで一度評価する必要性があるといえるだろう。

②SSc-ILDの自然史: 約30%がprogressor(5)

lcSSc, dcSScを共に50%含み, 約半分が抗Scl-70抗体陽性のSSc-ILD患者2259人の肺機能の自然史を見たもので, 約30%がprogressorであり、その予測因子として男性, mRSSが高い事, GERDや嚥下障害があることが特定された。免疫抑制や抗線維化薬の有効性がわかってきた今、このprogressive ILDを早期に診断することが今後重要になるだろう。

3. 注目の臨床試験・新薬

【ニンテダニブ】

SENSCIS trialはNINTがSSc-ILDにおいてFVCの低下を抑制することを示した試験で、今回そのさまざまなサブグループ解析が紹介された。NINT群の安全性と忍容性のサブグループ解析では消化器症状、特に下痢が多く、結果中止に至るケースが多いことがわかった。しかし下痢が生じても約3割は減量により継続可能で、かつ減量してもFVCの有効性に有意差を認めなかった6)。SENSCISは約半数がミコフェノール酸モフェチル(MMF)を用いた試験であり、併用の一定の安全性・忍容性が示された試験といえよう。

さらにMMFの併用群とNINT単独使用群を比較したサブグループ解析では、NINTはMMFの併用によらず有効ではあるが、併用した場合が最も有効性が高いことが示唆された7) 。また抗Scl-70抗体の存在, mRSS, 限局性・全身性などのサブグループ解析ではこれらのサブタイプによらず、NINTがFVCの低下を同様に抑制することが報告された8)。

既に広く用いられているNINTについての知見が深まってきており、今後さらに広く使用されていくのではないだろうか。

【トシリズマブ】

focuSSced trialはMMFを使用していないSSc-ILDにTCZがFVCの低下を抑制したことを示した試験で、今回参加者のさらなる解析でベースのILDの程度によらず有効であったことが示された9)。さらに延長試験では96週までの有効性が示され、更に48週までプラセボ群の患者をTCZに切り替えた後でもFVCの低下抑制効果が示された10)。FDAでは既に承認されているが、今後日本での動向も注目していきたい。

【リツキシマブ】

DESIRES trialに基づき、RTXは世界に先駆けて日本で承認され注目されている。この試験は初めてprimary endpointの皮膚硬化の有意な改善を示したが、FVC低下抑制効果も示唆された11)。RTXのFVCに対する効果を調べたRECITAL trial(NCT01862926)の結果がもうすぐ報告されるとのことで、SSc-ILDに対する有効性も刮目している。

【Sotatercept】

先日、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬として、Sotaterceptの第2相試験であるPULSAR trialが発表され12)、その著者の講演が非常に興味深かった。Sotaterceptはproliferative-antiproliferativeバランスを回復させる作用により、今回primary endpointである肺末梢血管抵抗の有意な低下を示した(-33.9% vs -2.1%, p<0.0001)。これは肺動脈のreverse remodelingを示唆する驚くべき結果で、現在複数の第3相試験が行われており(NCT04576988など), 今後の結果が大変楽しみである。

【IL-4/IL-13阻害薬】

Th2サイトカインであるIL-4/IL-13は線維芽細胞などに作用し、組織修復や線維化において重要な経路であることが近年注目されている。今回IL-4/IL-13の両方を阻害するbispecific抗体であるRomilkimabの第2相試験で、皮膚硬化に対して有効であることが紹介された13)。IL-4/IL-13軸は新たな線維化に対するターゲットであり、今後注目していきたい。

【その他の注目の新薬】

今回、最近行われた強皮症の新規治療のレビューが紹介されていた14)。下図に最近のphase1-2の新規治療薬の治験に加え、個人的に注目している最新の治療薬をまとめて紹介する。特に日本ではRTXに加え、IL-17RAをターゲットとしたブロダルマブが全身性強皮症に関して国内適応追加申請中であるなど、新規治療薬に目が離せない。

Trial drug Target Results
Inebilizumab CD19 PhaseⅠ:安全性・忍容性に問題なし
ダビガトラン トロンビン PhaseⅠ:安全性・忍容性に問題なし
Romilkimab IL-4/IL-13 PhaseⅡA:mRSS -2.31(p=0.029)
トファシチニブ JAK1/3 Phase I/II:Grade3以上のAEなし 有効な傾向
ピルフェニドン Myofibroblast
TGF-β/STAT3
Phase II:忍容性に問題なし
16週では変化なし
レナバサム カンナビノイド
受容体2
Phase Ⅱ:CRISS scoreが改善(p=0.044)
アバタセプト CD80/CD86 Phase Ⅱ:安全性に問題なし
1年では有意差なし
ベリムマブ BLys PhaseⅡ:52週でmRSSに有意差なし
安全性・忍容性に問題なし
リオシグアト グアニル酸
シクラーゼ
Phase Ⅱ:mRSSに有意差なし
mRSSの進行率を抑制
グセルクマブ IL-23 現在第Ⅱ相治験中
ブロダルマブ IL-17RA 第Ⅲ相でmRSS -16.8 (vs +4.4, p<0.0001)
安全性問題なし

【おわりに】

その他にも沢山の興味深い発表があったがいかがだっただろうか。学生時代、強皮症は「良くならない疾患」という印象があったが、新しい治療などが花開き日進月歩で患者の予後を改善している、非常に「アツい」領域といえるだろう。是非来年は皆様と直接顔を合わせて議論出来ることを楽しみにしている。

参考文献
1)Arthritis Rheumatol. 2021 Sep;73(9):1731-1737
2)Arthritis Rheumatol. 2021 May;73(5):837-847
3)Arthritis Rheumatol. 2021 Dec 20 online ahead of print
4)Arthritis Rheumatol . 2020Nov;72(11):1892-1896
5)Ann Rheum Dis 2021;80:219–227.
6)Ann Rheum Dis 2020;79:1478–1484
7)Lancet Respir Med. 2021 Jan;9(1):96-106
8)Arthritis Rheumatol. 2022 Mar;74(3):518-526
9)Arthritis Rheumatol . 2021 Jul;73(7):1301-1310
10)Am J Respir Crit Care Med. 2022 Mar 15;205(6):674-684
11)Lancet Rheumatol 3, E489-E497, 2021
12)N Engl J Med 2021; 384:1204-1215
13)Ann Rheum Dis 2020;79:1600–1607
14)Arthritis Res Ther 23, 155 (2021)