日本リウマチ財団ニュース

NO189号2025年3月号

国際学会報告書     アメリカリウマチ学会(ACR)2024

日本リウマチ財団ニュース189号に掲載しています「アメリカリウマチ学会(ACR)2024学会速報 」のロングバージョンです。

 

田巻 弘道 氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長
責任編集:岡田 正人
医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center

はじめに

トランプ大統領の当選が決まったばかりのワシントンDCにて2024年11月16日から19日まで、ACR convergence 2024が開催された。前回と同様に現地とWEBとのHybridでの開催であったが、いつもの大きな会場でのポスターセッション、大きな企業ブース展示などアメリカらしさをいつもながら感じられるACRであった。日本からの参加者は残念ながら少ない様に感じたが、いつもの通り非常に勉強になる学会であったので、毎回の様に筆者の独断と偏見で選んだ興味深い報告を紹介させていただく。

 

1. ループス腎炎の診断と治療のACRガイドライン2024年アップデート

アメリカリウマチ学会のループス腎炎のガイドラインは最終が2012年に発表されたものであった。それ以来、新たに承認された薬もあり、今回のガイドラインのアップデートとなった。すべてのACRのガイドラインはGRADE方を使用しており、このガイドラインでもGRADE方によるエビデンス、患者パネルの意見、そしてガイドラインメンバーの臨床経験から作られており、28の推奨(7個が強い推奨、21個が条件付き推奨)と13個のgood practice statementから成りたっている。強い推奨とは、その状況にあるほとんどの人が推奨されている行為を行いたいと思い、それを行わない人は少数である様な推奨であり、条件付き推奨とは、多くの人はその状況にある場合、推奨されている行為を行いたいと思うものの、それを行わない人も多くいるという推奨と説明されていた。Good Practice Statementとは、エビデンスがあるわけではないが、常識的に利益があるものや実用的なアドバイスであるものである。ガイドラインとして発表された全容は以下の表1を参照にしていただければと思う。まだ、完全に論文化される前であることは注意いただきたい。

表1)ループス腎炎の診断と治療 ACRガイドライン2024年アップデート

誌面が限られており、ここではこのガイドラインについて3つの特筆すべきポイントを示す。

一つ目は、グルココルチコイドに関してである。当院でもループス腎炎が示唆される様な場合には、速やかなグルココルチコイドの開始とともに腎生検を計画し実行しているが、このガイドラインでもそのポイントがGood Practice Statementという形で記載された。ループス腎炎が疑われる場合、腎生検および病理検査結果を待つ間、急性炎症を抑えるために速やかにステロイド治療を開始するべきであると勧められている。ネフロンの数が失われるのを少しでも防ぐための推奨である。また、前回のACRのガイドラインではグルココルチコイドの減量方法に関しては、特に定まったものが示されてはいなかった。今回は、ステロイドの用量、そして減量目標に関して明示している。

二つ目は、メインの治療に関してである。クラスIII/IVでは基本的にグルココルチコイド+ミコフェノール酸誘導体にベリムマブまたはカルシニューリン阻害薬を加えるのが第一選択薬になる。蛋白尿が3g/g・クレアチニン以上ある場合はカルシニューリン阻害剤が、腎外病変がある場合はベリムマブが勧められている。シクロホスファミドよりも、ミコフェノール酸誘導体が優先されるべき旨も記載されている。また、シクロホスファミドの用量に関してはユーロループス腎炎試験の低用量のプロトコールが勧められている。クラスVの場合は、蛋白尿が1g/g・クレアチニン以上ある場合は、グルココルチコイド+ミコフェノール酸誘導体+カルシニューリン阻害薬が勧められており、1g/g・クレアチニンより少ない場合はグルココルチコイド±アザチオプリンまたはミコフェノール酸誘導体またはカルシニューリン阻害薬が推奨されている。

最後に、治療反応がない場合あるいは治療抵抗性の場合の推奨である。治療無反応は6-12ヶ月で少なくとも部分的な腎臓治療反応が得られていないことを指し、治療抵抗性は標準的治療を2コースでも失敗している場合を指す。この様な場合には、治療へのアドヒアランス、適切な薬剤量を用いているかを確認することがGood Practice Statementとして最初に述べられている。無反応の場合は、2剤での治療をしていた場合は3剤への治療への強化、3剤での治療をしていた場合は、他の3剤のレジメンへの変更あるいは2剤目の免疫抑制剤を抗CD20抗体に変更して治療強化をすることが勧められている。

2. ACRの筋骨格超音波のガイダンス 関節リウマチと乾癬性関節

アメリカは欧州に比べると筋骨格系の超音波の使用に関しては進んでいない状況であったが、ついにアメリカリウマチ学会から筋骨格系超音波の使用に関するガイダンスが提案されるに至った。関節リウマチと乾癬性関節炎の2疾患に分けられて今回のガイダンスは提案された。

関節リウマチでは6つのドメインに分けられて構成されている。

  1.  治療
:一般人口集団を含む、筋骨格超音波の使用による治療の決定

  2.  再燃:筋骨格超音波は関節リウマチの再燃を確認するのに役立つか?

  3.  詳細:筋骨格超音波が疾患進行(例:骨びらんの進行、どの関節の見方か、どのスコアリング方法など)を予測する詳細や閾値。

  4.  炎症 vs 非炎症:筋骨格超音波は関節リウマチにおける炎症性と非炎症性の徴候や症状を区別できるか?(例:線維筋痛症、CPPD、変形性関節症、局所疼痛障害など)

  5.  早期RA:どの筋骨格超音波の炎症/構造的損傷の特徴や、どの関節が早期関節リウマチを予測するか?

  6.  寛解:臨床的寛解状態にある関節リウマチ患者において、筋骨格超音波は共有意思決定に情報を提供できるか?

これを元に最終的に28個の声明が出された。

乾癬性関節炎の方は、4つのドメインからなる。

  1.  乾癬性関節炎が疑われる患者において、どの炎症性および/または構造的損傷の特徴が早期PsAを予測(または診断を助ける)するか?

  2.  乾癬性関節炎患者において、筋骨格超音波は疾患の進行を予測できるか?共同意思決定に役立つか?

  3.  乾癬性関節炎患者において、筋骨格超音波は疾患状態を明確化できるか?どのような文脈的要因を考慮する必要があるか?

  4.  乾癬性関節炎患者において、筋骨格超音波で定義される寛解とは何か?どの特徴を評価すべきか?どの部位を評価すべきか?

これを元とし20個の声明が出された。
表に今回発表された内容を掲載する。表2を参照にしていただきたい。
まだ、正式に承認されたものではないことにご注意いただきたい。

表2)ACRの筋骨格超音波のガイダンス 関節リウマチと乾癬性関節 -ACR convergence 2024 16S06-

3. 様々な研究の発表

口演

a.  病理学的に活動性のあるループス腎炎を尿バイオマーカーで予測する(アブストラクト1642)

Johns Hopkins大学からの発表である。ループス腎炎の活動性を推定するバイオマーカーとして現在は蛋白尿の定量が使われているが、蛋白尿では活動性の炎症と慢性的なダメージなのかの区別はつかない。腎組織の病理を見ることで炎症かダメージかの区別はつくものの、侵襲的であり頻回に繰り返せるものでもない。そこで、腎生検でNIHの活動性スコアが2より大きい場合を活動性ありとし、腎生検時の尿中に検出された1200種類のタンパクからマシーンラーニングを使い腎生検でNIHの活動性スコアが2より大きいことを予測する12種類のタンパクの検査パネルを彼らは作成した。テストセットではAUCが0.90と高く、日常診療で用いられているC3のAUC 0.74, 蛋白尿は0.61、dsDNA抗体は0.58であった。同様の結果が得られ、バリデーションコホートでの感度は81%, 特異度は90%、陽性的中率は87%、陰性的中率は86%であった。この尿中のタンパクパネルスコアは増殖性ループス腎炎では治療反応とともに低下することが示された(純粋なV型では変化なし)。また、治療後12ヶ月時点で、スコアが高い場合は、蛋白尿の量に関わらず、将来のGFR低下を予測することができた。非常に有望な非侵襲的な検査であると感じられる結果であった。診断能という意味ではこれだけのデータではあるかないかはわからないが、活動性をフォローアップしていくという点で、他のコホート、様々な人種でもその有用性が確認されると、将来の臨床現場を大きく変える可能性がある発表だと感じた。

 

b.  免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けている自己免疫性疾患を持つ患者の死亡率(アブストラクト2532)

現時点で多くの免疫チェックポイント阻害剤が様々な癌種に使用されるようになってきている。ただ、元々の免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験では自己免疫性疾患がある患者は除外項目となっている。というのも、免疫チェックポイント阻害薬を用いることで、理論的に自己免疫性疾患の悪化、免疫抑制剤使用者では免疫チェックポイント阻害薬の効果が妨げられる可能性、重篤な有害事象の増加の可能性などが考えられるからである。今回の発表ではTriNetX Diamond networkという全米の患者保険請求と電子カルテのデータを使用したものである。傾向スコアマッチを行われ、自己免疫性疾患がある23714名と自己免疫性疾患のない23714名を比較した試験となった。呼吸器あるいは胸郭内の腫瘍が60%程度、ついでメラノーマや皮膚腫瘍が25%程度となっている。マッチしたコホートでは、自己免疫性疾患ある場合の死亡率は39.8%、自己免疫性疾患がない場合は40.2%とハザード比で0.97(95%信頼区間 0.94-1.00)と有意な差はつかなかった。

 

c.  アーサーとダイアナによる自動化システムでの関節リウマチ患者の手の超音波による活動性評価(アブストラクトL20)

自動化された関節超音波システムのアーサーと人工知能で超音波画像を判定してくれるダイアナの話題である。患者さんはアーサーのパネルの指示に従い、指並びに手首に超音波用のジェルをつけ、手を置くとアーサーが自動に手首と指に関節のスキャンを行い、グレースケール並びにパワードプラー画像を取得してくれる。ダイアナは関節超音波の画像を人工知能で判定し滑膜肥厚やパワードプラーのグレードをつけてくれる。30名の関節リウマチ患者さんでこの自動装置とリウマチ医が超音波を撮像しその精度を確かめたのがこの試験である。経験のあるリウマチ医と同程度の精度があることが示され、今後、リウマチ医の人手が足りない地域や、早期発見のためにこの自動化されてシステムは使用できるのではないかと感じさせられた。また、リモート診療を行う際の診察を補う役割も果たしうるのではないかと考えられる。未来のリウマチ診療の一端を見た気持ちにさせられた。

 

d  血管リスクのある患者を対象としたトファシチニブとTNF阻害薬の関節リウマチに対する試験におけるスタチン使用と心血管イベント(アブストラクト1745)

Oral Surveillanceのサブ解析である。様々なサブ解析が今まで論文化されてきたが、今回はスタチンの使用と心血管イベントに関してである。元々、Oral Surveillance試験は、心血管リスクのある50歳以上の患者が対象となった試験で、TNF阻害薬とトファシチニブの安全性の非劣勢を証明することを目的とした試験である。MACE(主要心血管イベント)に関して、非劣勢が証明できなかった(N Engl J Med 2022;386:316-326)。そして、サブ解析で分かったのが、リスクがあるのみの集団では特にMACEのリスクはTNF阻害薬群とトファシチニブ5mg群で大きく変わりはなさそうであったが、動脈硬化性心血管病の既往(冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管障害の既往)のない患者ではトファシチニブ郡の方がTNF阻害薬郡に比べてMACEのリスクが高そうであったという結果であった。

今回の発表では、これらの集団においてスタチンの使用の有無にてそのMACEのリスクを比較してみたという解析である。動脈硬化性心血管病の既往のある群ではスタチンを使用している患者が53%、スタチンを使用していない患者が47%であった。スタチンを使用している患者群においては、トファシチニブ5mg1日2回のTNF阻害薬を参照としたMACEのハザード比は0.98(95%信頼区間 0.32-3.04)、トファシチニブ10mg1日2回の群のハザード比は1.20(95%信頼区間0.41-3.45)、トファシチニブ全体群では1.09(95%信頼区間0.42-2.85)であった。スタチンを使用している群では、トファシチニブ5mg1日2回のTNF阻害薬を参照としたMACEのハザード比は4.16(95%信頼区間 1.16-14.93)、トファシチニブ10mg1日2回の群のハザード比は4.00(95%信頼区間1.08-14.78)、トファシチニブ全体群では4.09(95%信頼区間1.21-13.76)であった。本試験のサブ解析であり、人数が少ないので解釈には慎重を期する必要があるが、JAK阻害薬を使用する際にリスクのある患者でのスタチンの使用の重要性を示唆する内容であった。

 

e.  マネージメント困難な(Difficult to manage)体軸性脊椎関節炎のASASの定義(アブストラクト0819)

ASAS(The Assessment of SpondyloArthritis International Society)はヨーロッパを中心とした、脊椎関節炎の研究グループである。創設された当初は、脊椎関節炎の臨床アウトカムの指標を作ったことでも知られている。EULARが関節リウマチにおいてDifficult to Treat(D2T)の概念を定義し、その後GRAPPAが乾癬性関節炎においての同様のコンセプトの定義を作成中である。今回は、ASASから管理が難しい体軸性脊椎関節炎(Difficult to Manage Axial Spondyloarthritis)の定義が発表された。

以下の3つの基準が体軸性脊椎関節炎の患者で存在し、リウマチ科医に診断されなければならない。

  1.  ASAS-EULAR推奨に基づいての治療が行われ、2つ以上の作用機序の異なるb/tsDMARDs*での治療が不成功(禁忌の場合を除く**)
  2.  以下の一つ以上を満たす体軸性脊椎関節炎の症状兆候のコントロールが不十分
  3.  高あるいは超抗疾患活動(ASDAS≧1)
  4.  活動性を示唆する徴候や症状(筋骨格系あるいは筋骨格系外、CRP上昇***、MRIでの活動性炎症***)
  5.  X線での急速な進行****
  6.  上記のa-cにそうとコントロール良好だが、生活の質を落とす原因となる体軸性脊椎関節炎症状が依然ある
  7.  患者やリウマチ科医にとって問題であると捉えられる徴候や症状があること

  *          1次無効、2次無効あるいは副作用、不耐、禁忌による中止も含む。治療抵抗性の疾患の結論づけには副作用、不耐、禁忌による中止以外の治療失敗が必須である
  **        少なくとも2つのb/tsDMARDsを使用できないこととなる禁忌
  ***      客観的な炎症活動性(CRP上昇やMRI仙腸関節や椎体での活動性炎症)が治療抵抗性を結論づけるには必須である
  **** 2年で少なくとも2つの新たなsyndesmophyteあるいは骨架橋がある場合

  略語 b/tsDMARS: 生物学的/標的型合成 疾患修飾性抗リウマチ薬

今回のこの定義は炎症のみならず、他の因子による管理困難例も含めた定義である。今後、この様な管理が難しい患者さんを対象とした推奨も作っていくことを念頭においているとのことであった。どの様な因子で、体軸性脊椎関節炎の治療が難しいのか幅広く研究が行われ、多くの患者さんの未来へとつながることを願っている

f.  関節リウマチにおけるグルココルチコイド使用中止に伴う死亡率の変化(アブストラクト2673)

グルココルチコイドの使用により、心血管イベントや感染症のリスクが上がることは広く知られている。こういったグルココルチコイドに伴う有害事象のことを考え、昨今では可能な限りグルココルチコイドを関節リウマチに使わないようにする流れとなっている。今回の報告はカナダのブリティッシュコロンビア州の一般人口に基づいた新規発症関節リウマチコホートを使用した大規模な研究である。50220人の関節リウマチ患者がおり、28078名(55.9%)がグルココルチコイドを、平均603日、中央値で131日グルココルチコイドを使用した。その中で心血管イベントによる死亡は2489名(8.9%)、感染症は387(1.4%)であった。このコホートは3分の2が女性であり、平均年齢は63歳であった。1年グルココルチコイドが使用されると、心血管イベントでの死亡率が7.5%、感染症による死亡率が6.8%上昇し、やめて1年間で心血管イベントの死亡率が1.3%、感染症の死亡率が4.9%低下する。特に興味深かったのが、グルココルチコイドを6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月使用すると、心血管イベントによる死亡率が非使用者のリスクまで戻るのにそれぞれ20ヶ月、40ヶ月、120ヶ月かかる。そして2年以上使用すると、決して非使用者のリスクまでは戻らないということである。感染症による死亡のリスクも、グルココルチコイドを6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月使用すると、非使用者までのリスクに戻るのにそれぞれ30ヶ月、40ヶ月、65ヶ月かかり、3年以上使用していると、非使用者のリスクまで戻ることはなくなってしまう。グルココルチコイドの用量までは見ていない試験であるが、RAに使われている用量ということであればそれほど多い用量ではないことが推測される。グルココルチコイドの使用に関して適切にメリットデメリットを考えて行っていくことを実感させられた試験結果であった。

g.  関節リウマチにおいて、低疾患活動性からさらに寛解まで治療することのメリットは?(アブストラクト1743)

関節リウマチのTreat to targetの戦略では、寛解を目標に、低疾患活動性も大体の目標として許容されている。最近発症した関節リウマチのコホートにおいて、低疾患活動性以下を達成している患者さんを対象に、1年後寛解を達成しているのか、CDAIで2.8から6のvery low disease activity(VLDA)、CDAIが6-10のlow disease activity(LDA)を達成しているかでアウトカムに差が出たかどうかを見た試験である。寛解が89名、VLDAガ79名、LDAが32めいおり、平均年齢は50歳代前半、80%程度が女性で、抗CCP抗体は50-60%で陽性であった。調整された結果では、手術の率に関しては寛解、VLDA、LDAで有意な差はなかったが、DME(durable medical equipment、歩行器や杖、車椅子などといった器具のこと)の使用がオッズ比でLDAの場合、寛解を1とすると、1年目で5.37(1.87-15.43)、2年目で4.40(1.74-11.14)であった。VLDAでは1年目で1.94(0.70-5.35)、2年目で1.74(0.72-4.21)であった。寛解を目指せる場合には寛解を目指した方が当然良いという結果であったが、薬剤の有害事象とのバランスを考慮して治療を考えていく必要があるであろう。

 

ポスター

h.  血清陰性関節リウマチの長期アウトカム(アブストラクト0458)

Mayo Clinicからの興味深い報告である。血清陰性関節リウマチ(seronegative RA)は関節リウマチの中でも診断的に誤診が起きやすい領域であり、末梢型脊椎関節炎や慢性型の結晶性関節炎、特にカルシウムの結晶に関わるものは診断が難しいこともある。また、長期的には予後が良いとされているものの、なかなか長期的なアウトカムを検証した研究は少ない。このポスターでは1987年あるいは2010年のACRの関節リウマチの基準を満たすseronegative RAの176名を10年間追いかけたものである。診断の変更は15.1%に起き、脊椎関節炎と血清陽性関節リウマチ(seropositive RA)が最も多かった。薬剤なしの寛解は26.6%、また、b/tsDMARDsの使用は19.3%と一定数の予後が悪い群と予後の良い群があることがわかった。

 

i.  乾癬より前に乾癬性関節炎を発症する患者のアウトカムは異なるのか?(アブストラクト2328)

カナダのトロント大学からの報告である。乾癬性関節炎(PsA)では、多くの患者さんは乾癬を発症した後に関節炎症状をきたすことが知られているが、15%程度は乾癬の発症前に関節炎を起こすことが知られている。この研究は乾癬の発症前に関節炎を起こした場合(関節炎先行群)と、乾癬が診断されてから関節炎を起こした患者(乾癬先行群)を比較した研究である。乾癬性関節炎前向き観察コホートの1702名の患者の中で乾癬より前に関節炎を発症した患者は147名(8.6%)いた。単変量解析では乾癬の診断時の年齢の平均は乾癬先行群で28.2(14.6†)歳、関節炎先行群では40.8(14.3†)歳(p<0.001)で関節炎診断時の平均年齢は乾癬先行群で38.9(13.7†)歳、35.9(15.3†)歳(p=0.011)であった。乾癬先行群では爪病変(65.6% vs 43.9%)、HLA-C06(27.8% vs 14.0%)が有意に多く、関節炎先行群では骨びらん(67.9% vs 50.7%)、HLA-B27(31.8% vs 15.4%)、生物学的製剤の使用(13.6% vs 8.4%)が有意に多かった。放射線学的ダメージが起こるまでの時間をcox-proportional解析を行ったところ、二つのモデルで検証されていたが、どちらのモデルでも有意に関節炎先行群の方がハザード比が高かった。乾癬性関節炎の発症経緯に注目した興味深い研究であった。

†標準偏差

 

j.  抗合成酵素症候群の分類基準(アブストラクトL07)

22か国102のセンターが参加したプロジェクトで、2030例の抗合成酵素症候群の症例と2143例のコントロールの症例を集めて作った基準である。基準を図でお示しする。(図1)
図1)抗合成酵素症候群の分類基準

内部妥当性検証ではdefinite場合ではで感度86.8%特異度99.2%であり、ゴールドスタンダードのデータセットでは感度94.3%、特異度99.7%であった。Probableの場合は内部妥当性検証では、感度92.7%特異度87.3%であり、ゴールドスタンダードのデータセットでは感度97.5%、特異度87.6%出会った。今後のリサーチに用いられていくこととなると考えられる。

 

その他にも多くの興味深い発表があり、まだまだ紹介したい研究成果の発表があった。
残念ながら、紙面の都合上限られた情報のみの紹介となってしまったが、よりよいリウマチ膠原病疾患の治療を実現するためにとても有益な学会であった。