日本リウマチ財団ニュース
NO183号2024年3月号
国際学会報告書 アメリカリウマチ学会(ACR)2023
日本リウマチ財団ニュース183号に掲載しています「アメリカリウマチ学会(ACR)2023学会速報 」のロングバージョンです。
田巻 弘道 氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長
責任編集:岡田 正人
医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center
はじめに
2023年11月12日から15日まで、ACR convergence 2023がサンディエゴで開催された。前回と同様に現地とWEBとのHybridでの開催であったが、COVID19の影響も完全に払拭され、ポスター会場の復活もあり、現地でのセッションが中心となっていた。オンラインで見られるLiveセッションもあったものの限りがあった。物価高や参加費の高騰等の影響があったのか、会場自体の参加者は少し寂しい感じもしたが、いつもの通り非常に勉強になる学会であったので、毎回の様に筆者の独断と偏見で選んだ興味深い報告を紹介させていただく。
1.13M116 Great Debate:Should PMR and GCA Be Treated with Advanced Therapies at Disease Onset
お馴染みのGreat Debateである。巨細胞性動脈炎(GCA)に対してIL-6阻害薬であるトシリズマブがGiACTA試験にて効果を示しFDAに承認されたのが2017年、そして同じくIL-6阻害薬であるサリルマブがリウマチ性多発筋痛症(PMR)に対してSAPHYR試験で効果を示し、2023年にFDAに承認された。GCAとPMRは相互に関係し合う疾患であり、グルココルチコイドが治療の中心であったこれら二つの疾患はターニングポイントを迎えている。
今回のGreat DebateではGCAやPMRの治療において発症当初からIL-6阻害薬を使用すべきかに関して、Yesの立場からJohns Hopkins大学のPhilip Seo医師が、Noの立場からCornell大学のRobert Spiera医師が議論を行った。両者とも合意しているポイントとしてはグルココルチコイドスペアリングの必要性があること、IL-6阻害薬はGCAとPMRとの両者に効果があるということである。
Noの立場からのSpiera医師からこの論戦は始まった。彼の主張ポイントは両疾患ともにグルココルチコイド単剤で治療が可能な患者が一定数おり、グルココルチコイド単剤治療を最初に行い、早い漸減を行うことで有害事象を最小限化しつつ、グルココルチコイドのみで治療が十分でない患者を炙り出し、適切な患者群に対してIL-6阻害薬を使用すべきとの主張であった。
Spiera医師は論点の整理として、GCAとPMRの臨床試験のアウトカムとして使用されている指標に対する疑問点を呈することからプレゼンテーションは始まった。寛解維持率、グルココルチコイドの暴露量、再燃や再発が今までの臨床試験のアウトカムとして用いられているが、寛解維持はグルココルチコイドの用量や漸減の速さに依存するし、グルココルチコイド暴露量に関しては前向きな検討で実際にはどれくらいの差が臨床的に意義のあるものと皆が同意できるか、さらには、再燃や再発に関しては臨床的に重要な再燃や再発はどういうことかという疑問を呈した。
リウマチ性疾患の治療目標としては、完治、疾患活動性のコントロール(寛解または低疾患活動性)、疾患活動性あるいは治療に伴うダメージを減らす、生活の質を改善する、機能を改善するという点が挙げられる。この中で、Spiera医師は特にDisease Modification(疾患修飾)に注目をしていた。
GCAの疾患修飾とは短期的には失明などの虚血性の合併症を減らすことであり、長期的には動脈瘤などの血管合併症を減らすということである。これらに関してIL-6阻害薬が効果を示したというエビデンスはない。また、PMR自体は疾患活動性によりダメージをきたす様な疾患ではないためDisease Modificationという概念が当てはまらない疾患かもしれないとSpiera医師は主張した。
また、治療からくるダメージを減らすという観点において、GCAとPMRは共にグルココルチコイドが治療の主体となる疾患であり、グルココルチコイドの有害事象を減らすことが大切になる。臨床試験での有害事象を見てみると、GCAを対象としたGiACTA試験では、トシリズマブ群とプラセボ群と比較して全有害事象には差がなかった。最近のPMRのランダム化比較試験で、新規発症のPMRを対象としたSPARE試験では、グルココルチコイド関連の有害事象の軽減は認めなかった。
その他の論点として、グルココルチコイド単剤の治療でも一定数の患者が早めに漸減中止する方法で治療が可能という点、早めの漸減はグルココルチコイドの毒性リスクを低減した治療である点、イギリスでのコストの分析では一般人口レベルではGCAにおいては最初の再燃でIL-6阻害薬を導入する方が良い点などを挙げていた。
以上より、Spiera医師はGCAとPMRの治療に関して、グルココルチコイドの不耐用や単剤での治療失敗の場合には閾値低くIL-6阻害薬を導入することを意識しながら、GCAでは6ヶ月でのグルココルチコイド中止を、PMRでは4ヶ月で中止するように漸減していくことを勧めていた。
次にYesの立場からSeo医師が論点を述べた。Spiera医師とその父Harryが一緒に写っている写真から始まった。Harry Spiera医師はアメリカでのPMRの疾患概念形成の第一人者である。Seo医師の論点の主たるものは二つである。GCA/PMRに対して生物学的製剤は効果があるということと、グルココルチコイドは悪いということである。既にご存知の通り、GiACTA試験ではトシリズマブがステロイドスペアリング効果を示した。PMRでも様々な試験がされエビデンスが出てきている。特に、SAPYR試験は、Spiera医師が主導して行われた試験であり、Spiera医師も過去のインタビューでPMRにおけるステロイドスペアリング治療を見つけ出すのがPMRにおけるunmet needだと答えている記事も写真付きで公開されていた。PMRでのグルココルチコイド使用量は少なく、期間も短いと考えられがちだが、Seo医師は実際のデータを示しながら、初期用量として30mgを超える様な場合も一定数あること、12ヶ月を超えても6割以上がグルココルチコイドを使用していることを示した。また、グルココルチコイドは低用量であれば安全性がある程度あると考えられているが、これも実際のデータに基づいて、5mgを切るような低用量でも心血管イベントのリスクの上昇が見られたり、ステロイド性骨粗鬆症に関してはアメリカリウマチ学会のガイドラインでも2.5mg/日でスクリーニングをすべきという推奨になっていたりする事が示されていた。両者ともなるほどと思わせる理論展開であり、今後の診療について考えさせられる内容であった。
2.12S101: ACR Guidelines: Interstitial Lung Disease(ILD)
間質性肺炎に関しては、治療薬に関するエビデンスが近年出てきたということもあり、ガイドラインの策定が望まれていたが、ACR2023でその内容が発表された。このガイドライン自体は、エビデンスに基づいたものであり、また膠原病に関連する間質性肺炎の全般的なガイドラインとなっている。セッションでは、ガイドライン作成の方法、ガイドラインの内容そしてガイドラインの適用を示した症例提示の3部構成であった。最終的には50個の推奨が作られたが、今回はこのセッション中で話されたことの中からポイントを絞って紹介する。全体像に関しては図1を参考にしていただけたらと思う。
まずは、このガイドラインを理解するにあたっての注意点として、17歳以上を対象としており、小児疾患は対象外である点、血管炎やSLEの対象外となっている点、膠原病関連のILDの試験は、参加人数が他の臨床試験に比べると比較的少なく、アウトカムもFVCというsurrogate markerが設定されていることが多いため、とてもよくデザインされた試験でもエビデンスレベルはどうしてもlowあるいはvery lowとなってしまう点が述べられていた。また、治療に関しての推奨はその疾患のILDのみに対しての推奨となり、背景疾患そのもののコントロールに関しては考慮されていない点は気をつけるべきである。
ILDのそれぞれの疾患におけるリスクファクターを表1に掲載する。スクリーニングの際のpearlとしてセッション中に取り上げられていたのは、肺機能検査はスパイロメトリーだけではなくTLCとDLCOも行うことや、救急外来などで撮像される肺塞栓を目的に撮像されたCTでは吸気が不十分であるので間質性肺炎のあるなしの判定に使わないなどといったことが述べられていた。
治療の方では、選択肢に挙げられているものはエビデンス的にlowあるいはvery lowでありどの薬剤を優先するべきといったものはなく、ILDを対象とした治療選択薬のみの提示であるので、原病の疾患活動性のコントロールとはそぐわない選択肢もあることが注意点である。
ILDの進行に関しては、INBUILD試験の基準が用いられている。
24ヶ月以内で
・少なくとも10%の相対的な予測FVCの低下
・少なくとも5%から10%未満の相対的な予測FVCの低下に加えて、呼吸症状の悪化あるいは高分解CTでの線維化の程度の悪化
・呼吸症状の悪化に加えて線維化の程度の悪化
と定義されている。
最終的にどのような形で出版されるようになるのか結果が待たれる。
3.12S111 Lupus Prevention and Disease-Modifying Anti-Lupus Drugs (DMALDs), Are We There Yet?
関節リウマチでは実際にPre-RAと呼ばれるat riskの人に対しての薬物介入試験が多数行われ、関節リウマチの発症予防が一つのトピックとなっている。この流れが、SLEの方にもやってきた。SLEの予防と銘打ったこのセッションでは3人の演者が発表を行なっていた。
1番目の演者はKarp医師で”Can we prevent lupus?”というタイトルであった。SLEの発症予防を考えるにあたって、参考になる疾患としてI型糖尿病を挙げ、そのステージングとして、自己抗体があるが糖尿病のないstage I、自己抗体がありかつ耐糖能異常があるstage II、自己抗体があるかつ糖尿病であるstage IIIの3段階に分けられ、stage IからIIと段階が上がるほどI型糖尿病の発症リスクは上がることが知られている。さらにはstage IIで介入しstage IIIを減らす薬剤も存在することが知られている。これを参考にSLEではStage Iでは症状なしで自己免疫が見られる、stage IIは若干の症状と自己免疫がある、stage IIIは自己免疫があり、SLEと分類できる、stage IVは末期の臓器障害があるものと定義していた。様々なデータで、stage Iやstage IIの状況であっても健常人と比較すると自己抗体の数が増えていく、また、炎症性サイトカインやケモカインが活性化していることが知られ、診断の6-7年前からTh2/Th17系のサイトカインが、診断の4-5年前からTh1系のサイトカインが、診断の1-2年前から特異抗体が陽性になることが知られている。
実際に防ぐという話になると、どの患者をスクリーニングしたり対象としたりするのかが論点となるが、一親等にSLEがある人やまだSLEの基準を満たさないがそれらしい症状がある様な人を挙げていた。実際に、症状はあるが基準を満たさないという人では年2-5%がSLEの分類基準を満たすことが知られている。また、どの様な薬剤を使用するのかということも論点となる。B細胞を標的とするのであれば、抗CD20、抗BLyS、T細胞の活性化ではればアバタセプト、I型インターフェロンであればアニフロルマブやヒドロキシクロロキンが考慮されるが、ほぼ症状のない人に用いるので、どれぐらいの期間用いるか、安全性はどうなのかなどといったことが課題になる。実際にSMILEという2012のSLICCのSLEの基準を1-2個満たす、抗核抗体80倍の患者を対象としたヒドロキシクロロキンのランダム化プラセボ比較試験が行われていることと進捗状況を説明してKarp医師の講演は終わった。。
次の演者はAncanase医師であった。タイトルは”disease modification in lupus”である。既にLupus Science and Medicineに論文化されている(Lupus Science & Medicine 2022;9:e000634 )エキスパートによるSLEのdisease modificationの定義に基づいての話であった。SLEにおいては、治療関連の毒性や治療関連のダメージを最も少ない形で疾患活動性を最小化しかつ臓器障害を遅らしたり予防したりすること(ループス腎炎の場合は末期腎不全)をもってdisease modificationがあると考えられる。実際に、1年目、2―5年目、5年目以降でどの様な基準を満たしたevidenceがあればこのdisease modificationを達成できる薬剤ということも提案されている。SLEでは1年目では①検証されている疾患活動性の測定ツールで疾患活動性を有意に減らすこと②検証されているツールで重篤な再燃を有意に減らすこと③ステロイドや免疫抑制剤の減量を行うこと、2-5年目は①多臓器領域で改善が維持され悪化がないこと②重篤な再燃を予防すること③ステロイドや免疫抑制剤の減量の継続、そして5年目以降ではダメージの指標であるSDIに変化や遅れての増加がないこととされている。現在、様々な薬剤がある中で臨床試験からのエビデンスという意味では5年以降の項目まで満たすものとしてはベリムマブがそのエビデンスを持つ薬剤ということになる。
最後の演者はDall’Era医師でタイトルは”Paving the road to Disease Modification in Lupus Nephritis”であった。”Time is Kidney”という言葉から始まったこの話は、ループス腎炎において腎臓のダメージは免疫学的な機序と比免疫学的な機序があることから始まった。ループス腎炎でdisease modificationを達成するには実臨床では何が必要かというポイントについて語られた。今までのステロイド、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルではまだまだ不十分な点があり、演者は以下の様な提案を行なっていた。
①以下の治療戦略を開発する
・自然免疫と獲得免疫の両者に影響を与える治療
・疾患の機序に重要な免疫経路を標的とする治療
・自己免疫と炎症の現在の進行を和らげる相乗的相補的な治療
② 腎のダメージに寄与する免疫学的、非免疫学的なメカニズムを標的とする総体的な治療を行う
③ 早期に診断し治療する
④ 維持療法をいつどの様に減らすか理解する
⑤ 患者の薬物に対するアドヒアランスを手助けする
⑥ 必要であれば治療薬の血中濃度モニタリングを考慮する
その中でも昨今のupfrontでのベリムマブやボクロスポリンをミコフェノール酸モフェチルに加えたコンビネーション治療の重要性を現時点での治療戦略として推奨していた。また、非免疫学的な経路にもアプローチすることの大切さ(蛋白尿を減らす、高血圧をコントロールする、レニンアンギオテンシンアルドステロン経路の抑制、減塩、健康的な体重、SGLT2抑制、腎毒性のある薬剤の回避、アドヒアランスを促進)を示して話が終了となった。
4.様々な研究の発表
口演
a. L19 膝変形性関節症に対するTLC599の効果
2−4週間程度の症状緩和が可能であるとのことで、膝関節の変形性関節症に対してのステロイド関節内投与は日常診療でも行われる事がある手技である。アメリカリウマチ学会の2019年変形性関節症のガイドラインにても、短期的な効果があるとのことで推奨されている。ただ、関節軟骨の減少をきたす可能性もあるとされており、今回のACRではMeet the panelのセッションの一つにおいてdiscussion形式で、To inject or not to inject an OA knee: That is a questionというタイトルで議論が行われていた。興味がある方はこちらもご覧になられてはと思う。
Late breaking abstractでステロイド関節内注射に関する演題があった。TLC599とは、デキサメタゾンのリポソーム製剤である。この試験は、Kellgren-Laurence分類2−3度で0-10のスケールで毎日の痛みのスコアが平均で5-9の変形性膝関節症を対象としたランダム化二重盲検比較化試験である。TLC599を12mg投与する群、デキサメタゾンを4mg投与する群、プラセボ群の3群に分けられ、week0に上記の薬剤が投与された。Week24で、TLC599群とプラセボ群は再度同じ薬剤を盲検下に投与され、デキサメタゾン群はTLC599を盲検下で投与され、効果と安全性が52週まで観察された。主要評価項目は12週時点でのベースラインからのWOMAC pain scoreの変化量をTLC599とプラセボで比較する事であった。12週ではWOMAC pain, WOMAC function, 疼痛スケールともにプラセボに比べTLC599群で有意に低下していた。WOMAC painではTLC599とデキサメタゾン群では差があまりなさそうであったが、毎日の痛みのスコアの平均ではTLC599とデキサメタゾンではTLC599の方が低い傾向があった。また、24週での2度目の注射後には毎日の痛みのスコアの平均値の更なる低下が見られた。有害事象としては、注射関連の一過性の関節痛が数値的にはTLC599において8%とデキサメタゾンの3%やプラセボ群の5%より高かったものの、その他の有害事象では大きな差はなかった。関節内へのステロイド注射の薬剤の候補として新たなオプションが加わるかもしれないと言うことと、デキサメタゾンの注射の効果が長持ちする点が興味深い発表であった。
b. 2480 SDAIやCDAIに基づくフレアの定義
SDAIやCDAIのスコアの変化におけるフレアを定義し妥当性を検証すべく、ノルウェーとオーストリアのコホートを用いての研究が行われた。フレアのゴールドスタンダードとしては5点のLikertスケールにての2ポイント低下と定義された。ノルウェーのコホートをトレーニングコホートとテストコホートに分け、トレーニングコホートでカットオフポイントを定め、テストコホートで妥当性を評価するとともに、オーストリアのコホートでもその妥当性を検証した。その結果、SDAIで少なくとも4.7の上昇、CDAIで少なくとも4.5の上昇がカットオフとして設定された。検証のために、この定義でフレアがあった群となかった群を比較すると、フレアがあった場合はオッズ比で2.43(95%信頼区間2.30-2.58)と有意に治療変更が行われ、フレアがあった場合はHAQが0.43(95%信頼区間0.27-0.60)と悪化が見られ、mTSSに関してもフレアがあった場合はなかった場合に比べて43%高い確率でmTSSが1ポイント上昇する可能性があると示唆された。この定義で設定されたフレアは、治療変更、身体機能、構造変化に関して影響を与える事が示された。この定義を利用しての生物学的製剤の漸減やスペーシング、中止などの試験を見る日が来るかもしれない。
c. 0725 実臨床での多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)に対してPEXIVASプロトコール減量グルココルチコイド使用
PEXIVAS試験によって、減量グルココルチコイドレジメンと通常グルココルチコイドレジメンを比較した際に、主要評価項目である死亡と末期腎不全の複合評価項目にて差がなかったことと、1年間の感染症が減量グルココルチコイドレジメンで有意に低かったということがあり、PEXIVAS試験発表後の各国のガイドラインではPEXIVASプロトコールのステロイド減量レジメンが勧められるに至っている。この様な現状の中で、リアルワールでの減量グルココルチコイドレジメンの実際に関してフランスの血管炎グループが後ろ向きに調査した結果が発表された。
リツキシマブあるいはシクロホスファミドを寛解時に使用したGPAとMPA患者に対して減量グルココルチコイドレジメンか標準グルココルチコイドレジメンを使用したそれぞれの群において、複合評価項目(Major relapse, minor relapse, 治療にも関わらず寛解達成前に病気の進行があり治療の修正が必要、透析あるいは腎移植が必要な末期腎不全、死亡)を満たす割合をみた。ベースラインの特徴としては、標準グルココルチコイドレジメン群と減量グルココルチコイドレジメン群で、それぞれMPA(29%vs 49%), GPA(71% vs 51%), MPO-ANCA陽性(39% vs 49%), 耳鼻科領域の症状(55%vs36%), 腎臓(63%vs76%)と両群で差があった。多変量解析で複合主要評価項目を満たすハザード比が減量レジメン群では1.72(95%信頼区間1.08-2.74)と有意に高かった。減量レジメン群でサブ解析をすると、血清クレアチニン値が300umol/L(3.38mg/dL)より高い場合が多変量解析で2.14(95%信頼区間1.14-4.03)とリスク因子として有意に浮かび上がってきた。また、リツキシマブで寛解導入した群でのサブ解析でもPEXIVAS試験の主要評価項目であった死亡+末期腎不全の複合評価項目に関して減量グルココルチコイドレジメンが多変量解析で2.42(95%信頼区間1.04-5.66)とリスクになっていた。これにより著者らはリツキシマブで寛解導入を行う場合、クレアチニン が3.39mg/dLを超える場合は減量ステロイドを使う場合には注意が必要であると結論づけている。
d. 2596 EUSTARデータベースにおける全身性強皮症の間質性肺炎に対するトシリズマブ、リツキシマブ、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミドの効果の比較
全身性強皮症に伴う間質性肺炎は、患者予後規定因子の一つである。その治療薬として免疫抑制を行う薬剤としては、ミコフェノール酸モフェチル、トシリズマブ、リツキシマブ、シクロホスファミドの4剤がランダム化比較試験にてその効果が示されている。しかしながら、これらのどの薬剤を最も効果が見込めるかということに関してはまだまだ不明な点が多い。
EUropean Scleroderma Trials And Research group(EUSTAR)のコホートにて上記を検証したのがこの報告となる。EUSTARのコホートの中で、放射線学的な間質性肺炎があり、上記の薬剤を使用したことがある患者の中で、その治療期間の中で2回の呼吸機能検査結果があるものが対象となっており、FVC%が主要評価項目である。傾向スコア(逆確率重み付け法)を用いて解析がなされており、FVCの変化に関してはこの4つの薬剤で特に大きな差はなかった。サブ解析では、シクロホスファミドが臨床的には意義がないかもしれない程度の差ではあったが、統計学的には有意に良い結果が出ていた。
e. 1641 乾癬性関節炎にwindows of opportunityはあるのか?
関節リウマチではwindows of opportunityという概念は確立したものとなっているが、乾癬性関節炎ではどうなのであろうかというのがこの研究である。Dutch southwest Early PsA cohort(DEPAR)という、多施設のDMARDナイーブの患者の観察コホートのデータを用いて行われた。症状が12週間以内、12週から1年、1年を超える患者の3群で様々な評価項目が比較された。MDA(minimal disease activity), Disease Activity Index for Psoriatic Arthritis(DAPSA)寛解、HAQ-DIでは1年を超えた群では悪く、放射線学的な進行は3群で大きく変わらなかった。乾癬性関節炎においても早期診断、早期介入によって予後が変わることがデータとして示された。
ポスター
f. 0402 写真の自動判定を用いた関節リウマチでの関節腫脹の定量化
世界的なCOVID-19の流行の影響で発達したものといえばテレビ電話などを用いた遠隔医療であるが、その遠隔医療に役立つかもしれないポスターがあったのでご紹介する。
関節リウマチのPIP関節の径と手背側のPIP関節の皮膚の皺の長さを写真から計測し、FFI(finger fold index)を関節径のピクセルでの長さと認識された皮膚のシワの平均の比を出し、関節腫脹のマーカーとできるかということを検証した試験である。関節リウマチ患者の1783のPIP関節の写真とコントロールの168の健常者のPIP関節が比較され、有意に関節リウマチ患者のFFIが高かったと報告された。これが実際に腫脹関節を正確に予期するものであったとすれば、遠隔で写真を撮ることで腫脹関節の判定ができる様になるかもしれず、関節リウマチの遠隔医療の進展に大きく寄与する可能性がある。
g. L14 MANDARA study
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に対する抗IL-5阻害薬での治療はメポリズマブが2018年に承認されて日常診療でも使われており、その効果を実感されている方もおられるかと思う。今回はEGPAに対して、ベンラリズマブというIL-5阻害薬が使用された試験が今回Late-breaking abstractとして発表された。再燃あるいは治療抵抗性でプレドニン換算で7.5mg/日以上使用している患者さんが組み込まれ、メポリズマブ300mg4周毎の投与と、ベンラリズマブ30mg4週毎投与の2群にわけて比較したランダム化二重盲検多施設共同第3相非劣勢試験である。主要評価項目は36週と48週両時点でBirmingham Vasculitis Activity Score(BVAS)=0かつプレドニン換算でグルココルチコイドが4mg/日以下という寛解の定義を満たす状態であることである。主要評価項目を満たしたのはメポリズマブ群で59.2%とベンラリズマブ群で56.5%と非劣勢を達成した。
今後試験の詳細に関して論文化されることが楽しみな試験である。
h. 0548 抗核抗体陽性で来る非特異的な症状しかない患者の将来発症の予測
前向きで、抗核抗体が80倍以上、非特異的な症状が1年以内の新たな紹介、治療なしの患者を対象にしたコホートからのデータである。以前に同グループがIFN-score-Bと家族歴にて12ヶ月後の抗核抗体陽性患者がSLEなどの自己免疫性疾患の基準を満たすか予測できると報告している(Annals of the Rheumatic Diseases 2018;77:1432-1439)。今回は更に、3年後までのデータまででの検討を行なっている。
148名が対象となっており、平均年齢は47歳、89%が女性、72%が白人、32%に家族歴がある患者が対象となっている。21名(14%)が1年目に発症し、2〜3年目に発症したのは12名(8%)だが、3年目はこの12名のうちたった2名であった。FN-score-Bと家族歴に加えて分類基準の臨床項目が一つ以上あることで、1年目の発症はオッズ比で7.8(95%信頼区間 1.7-36.3)であった。このモデルでは特異度が90%台の後半ということだったので、どちらかというと除外目的というよりかは、早期介入に役立つのかもしれない。
実臨床では手に入らないバイオマーカーが使用されているが、抗核抗体陽性の患者で感度良く将来の抗核抗体関連疾患の発症を予測できるリスクモデル(除外に優れている)、あるいは特異度高く予測できるモデル(早期介入が可能になるかもしれない)が実臨床では求められていると感じた発表であった。
i. 0484 高感度CRPが高い乾癬の患者の方が将来の乾癬性関節炎のリスクになる
トロント大学の観戦コホートからのデータである。2006年から2019年にかけて乾癬の患者589名の患者が中央値で7.5年フォローされた。57名が乾癬性関節炎を発症した。高感度CRPは平均で3.1±5.5mg/Lで、関節痛、ひまん、女性で有意に高感度CRPが高かった。Cox proportional hazard modelを用い、年齢、性別、乾癬の罹病期間、PASI、爪病変、BMI、痛み、FACIT-fatigue、生物学的製剤の使用、非生物学的製剤の全身治療、UV治療などで調整した後もハザード比で1.04(95%信頼区間 1.01-1.06)と上昇が見られた。
j. L03 VEXASにおける標的療法の効果と安全性
フランスの後方視的多施設研究からのVEXASに対する標的療法の効果と安全性をみた試験である。年齢は中央値で71歳の110名(99%男性)のVEXASが解析された。53名は一つ以上の治療を受けている。3ヶ月時点で治療反応があったのはJAKで24%、抗IL-6阻害薬で32%、抗IL-1阻害薬で9%、TNF阻害薬では0%であった。6ヶ月ではJAK阻害薬で30%、抗IL-6阻害薬では26%であった。治療継続率はJAK阻害薬で他の薬剤よりも有意に高かった。
その他にも多くの興味深い発表があった。以上紙面の都合上限られた情報のみの紹介となってしまったが、よりよいリウマチ膠原病疾患の治療を実現するためにとても有益な学会であった。