平成24年度日欧リウマチ外科交換派遣医

 

TOKYO

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 整形外科教授
桃原 茂樹

 ヨーロッパでリウマチ外科を専門としたEuropean Rheumatism and Arthritis Surgical Society (ERASS)と日本リウマチ財団との間で日欧リウマチ外科交換派遣医制度(European and Japanese Exchange Fellowship in Rheumasurgery)が平成11年より設けられており、隔年で両者間の交換留学を致してまいりました。そして本年度の平成24年はヨーロッパから2人のリウマチ外科医が日本に来られましたのでご報告させて頂きます。今回来日されました外科医は、スイスのチューリッヒにあるSchulthess Klinikから来られましたStephan F. Schindele, M.D.と、オランダのハーグにありますMedical Center Haaglandenから来られましたPeer van der Zwaal, M.D.のお二人です。約2週間の日本滞在でしたが前半の1週間を東京に滞在されました。そこで、私が東京でのホスト役を仰せつかりましたので東京での研修についてご報告させていただきます。

 9月2日(日)にSchindele先生が最初にお一人で来日されました。van der Zwaal先生は母国でのご友人の結婚式参加のため翌日の9月3日(月)に来日されております。9月2日(日)の夜は、一昨年と同様に滞在先のホテルでSchindele先生と待ち合わせをしてから女子医大の面々と日本的情緒溢れるお店で食事をご一緒しました。一昨年来られたFontaine先生やCetin先生と同様に紳士的でとても温かみがありユーモアセンスに溢れた人柄であることが分かり、スイスや日本での医療事情や趣味などに話を咲かせました。

 翌日の9月3日(月)より研修が始まりましたが、van der Zwaal先生は3日の夕方より合流しております。van der Zwaal先生もとても知的で温厚な印象でしたが、基礎的研究にも造詣深い先生でした。

 3日は慶應義塾大学、4日(火)は東京女子医科大学、5日(水)は都立墨東病院、6日(木)は再び東京女子医科大学、7日(金)は東京大学で研修して頂きました。お二人とも上肢がご専門でしたので、各施設でリウマチ患者さん達の手指の関節形成術や人工肘関節を中心に外科的治療を、また海外にはない人工距骨などの手術を見学されています。

またこの間、4日(火)の夕刻には日本リウマチ財団理事長の高久史麿先生の元を表敬訪問致しました。
 さらに6日(木)の夜には、信濃町の明治記念館において東京地区のリウマチを専門とされている30名を超える整形外科の先生方にお集まり頂き、お二人の発表も併せて講演会を開きました。この時の講演の座長を東京大学整形外科教授の田中栄先生にお願いし、お二人の発表に加えて日本側からは帝京大学整形外科教授の西村慶太先生と慶應義塾大学岩本卓士先生からもご講演を頂戴して活発な討論が行われました。最後は日本医科大学リウマチ科准教授の中村洋先生にclosing remarksを頂いてとても実りのある会となりました。
 

 お二人には東京での慌ただしい滞在でしたが、彼らは時差を物ともせずに築地のマグロの競り見学や東京スカイツリー、浅草寺なども精力的に回ってきたようです。またカラオケにも一緒に参りましたが、予想以上に二人ともとても喜んで頂きました。彼らの研修記録が
ERASSのホームページ   http://www.erass.org/html/eujapan2012.html
にも写真つきで詳細に報告されていますので是非ご覧ください。

 最後に彼らを受け入れて頂きました慶應義塾大学 中村俊康先生、佐藤和毅先生、岩本卓士先生、墨東病院 永島正一先生、永瀬雄一先生、東京大学 田中栄先生、安井哲郎先生にここで深く感謝申し上げます。誠に有難うございました。今後もこの交換留学制度が末永く続くことを願ってやみません。以上、東京での滞在記でした。

 

OITA

大分大学医学部 整形外科教授
津村 弘

大分大学整形外科  9月8日(土曜日)、9日(日曜日)、10日(月曜日)、11日(火曜日)

 9月8日から11日の4日間、大分大学整形外科で担当させていただきました。病院では人工膝関節、人工股関節の手術見学を行いましたが、人工関節設置位置の術前シミュレーションや術中ナビゲーションの説明と意見交換を行いました。また、九州の自然や別府温泉、大分の郷土食も体験してもらいました。

9月8日(土曜日)

 分空港に到着後、大分市内のホテルへ移動。夜は有志による歓迎会を行いました。

9月9日(日曜)

 阿蘇、別府観光。天候にも恵まれ、九州の自然と別府温泉を満喫していただきました。

9月10日(月)

 大分大学医学部の学部および附属病院の施設見学、整形外科の外来見学を行いながら、施設(特に電子カルテ)や医療制度の違い、問題点などの意見交換を行いました。

 午後はCTデータを使った術前シミュレーションの説明を行ったあと、人工膝関節置換術の見学をしました。
 
 夕方からカンファレンスに合わせ、Dr. Schindele、Dr. van der Zwaalから主に上肢の手術に関するプレゼンテーションがあり、教室員との議論を行いました。

  夜は大分のふぐを堪能していただきました。調理前のふぐも見せてもらい、さしみやキモ、ひれ酒などを美味しくいただきつつ、普段の生活や趣味などで話しがはずみ交流を深めました。

9月11(火)
 

 午前中は人工股関節置換術の見学を行いました。術中ナビゲーションを使用したプロステーシスの設置位置の確認に、とても興味を持っていただいたようです。午後は再度、人工膝関節置換術の見学を行いました。

 また、人工肘関節置換術や、関節リウマチに対するバイポーラ型人工骨頭置換術についてもレントゲン写真等を見ながら意見交換を行いました。

 夜は医局員との送別会でした。お二人の先生ともにとても気さくであり、若い医局員達と夜遅くまで盛り上がったようです。

 
FUKUOKA

国立病院機構九州医療センター リウマチ・膠原病センター部長
宮原 寿明

 日欧リウマチ外科交換派遣医の東京以外の訪問先として、今回九州が選ばれました。ERASSからの派遣医師Dr. SchindeleとDr. Zwaalは、東京で1週間、九州では大分に4日間滞在した後、9月12~14日の3日間、福岡で研修されました。日本での研修を締めくくる最後の訪問先として、短期間ではありましたが、リウマチ外科医同士でしかできない貴重な意見・情報交換が出来、お互いに有意義な時間を過ごすことが出来ました。以下、福岡での研修についてご報告させていただきます。

9月12日(水)

九州大学整形外科学教室
 早朝に大分を立っていただき、午前9時30分博多駅着。宮原が出迎え、そのまま九州大学整形外科学教室を訪問。日本整形外科学会理事長でもある岩本幸秀教授に面会させていただきました。岩本教授から、教室の紹介を受けるとともに、日本の整形外科学発展の歴史について、教室の歴代教授の紹介も交えて話していただきました。両先生は特に神中、天児、杉岡教授の業績について、興味深く傾聴しておられました。九大では、医局長の福士純一先生に九大病院内を案内してもらい、岡崎 賢先生執刀の脛骨高位骨切り術を見学していただきました。

 午後は宿泊先の福岡ヒルトンホテルシーホークにチェックインした後、九州医療センターを訪問。ホテルが病院の真向かいで歩いてすぐの距離に位置するため、とても利便性がよく喜んでおられました。この後、九州医療センターの外来を見学し、整形外科・リウマチ科スタッフを紹介しました。その後、周囲のシーサイドももち地区を散策し、福岡タワーから市内の眺望を楽しんでもらいました。また、近くのKMペインクリニックにも立ち寄り、疼痛治療や手術麻酔法の彼我の違いについて語り合いました。


 夜はホテルニューオータニ博多でリウマチ外科手術手技研究会を開催しました。九大と九州医療センタースタッフを中心にリウマチの外科治療に関わる医師が参加しました。九大からは中島康晴準教授にも参加していただきました。一般口演の後、Dr. ZwaalとDr. Schindeleによる特別講演を組ませていただきました。

<一般口演>
Masanobu Ohishi, M.D.
The management of bone fragility in rheumatoid arthritis.
Junichi Fukushi, M.D.
Adult hypophosphatasia presenting as painful calcific periarthritis.

<特別講演>
Peer van der Zwaal, M.D.
Mini-open rotator cuff repair vs arthroscopic rotator cuff repair.
Stephan F. Schindele, M.D.
Where are we from, and what are we doing?-Schulthess Clinic-Procedure of arthroscopic ulnar nerve release.

 一般口演に対しては両先生から細かな質問を戴き、研究会を盛り上げて戴きました。Dr. Zwaalは上肢、特に肩・肘の外科が専門であり、特別講演では腱板修復術の優れた術後成績について話していただきました。Dr. Schindeleも同じく上肢:肘・手の外科の専門医であり、手術手技の実際をわかりやすくビデオ供覧していただきました。また、彼の所属するSchulthess Clinicでは、年間9000例の整形外科手術がおこなわれているとの話を聞き、皆驚嘆の声を上げていました。

 その後の懇親会は英会話の練習も兼ねて若い先生方が両先生を取り囲み、楽しい歓談の場となりました。

9月13日(木)

午前:九州医療センターにて手術見学。最初に宮原執刀のTHAを供覧しました。Dr. Schindele は私のTHAが50分かからず終わるのを見て、これなら縦列で1日5例はできるだろうとおっしゃるのですが、日本のリウマチ外科医は多部位の手術も多くこなさなくてはならないし、欧米と違って手術のincentive feeもないから無理だと説明しました。その後、リウマチ・膠原病センターの病棟を案内し、リウマチ患者の回診を一緒におこない、各種手術手技に関してディスカッションしました。また、リウマチではありませんが、高位脱臼に対する大腿骨骨切り併用THAに関して特に興味を示していました。

午後:両先生とも上肢の外科が専門ですので、手の外科を専門にしている溝口整形外科病院に案内しました。手の外科専門医でマイクロサージャリーも手掛ける小島哲夫院長に案内していただき、Dr. Zwaalが専門としている関節鏡視下腱板修復術(財津泰久医師執刀)を見学してもらいました。手術手技に関する意見交換とともに、小島院長が前月にスイスに行っていたことから、話が盛り上がっていました。

 九州医療センターは福岡ヤフージャパンドームの真向かいにあります。折角の機会ですので、福岡最後の夜はドーム球場で野球観戦をしていただきました。両先生とも欧州はもちろん、幾度も訪れたアメリカでも野球をみたことがなく、スポーツ整形外科としての興味もあって是非一度見てみたかったそうです。スーパーボックスで食事をしながらの観戦でしたが、二人とも大はしゃぎで楽しんでおられました。

9月14日(金)

 朝から小雨がぱらつくあいにくの天気でしたが、日本滞在最後の日でしたので、観光として、大宰府天満宮、光明禅寺、観世音寺、九州国立博物館を案内しました。お二人とも京都にいったことがありませんので、代わりとしては小規模ですが、光明禅寺で枯山水の庭を前にひと時安らいでいただき、観世音寺で多くの仏像を観賞していただきました。また、九州国立博物館では、日本とアジアの文化交流の歴史に触れていただきました。お二人とも日本の文化にとても興味を持っておられ、日本の食べ物も大好きで、昼食は3日間すべて和食でした。

 

 最終日、大宰府観光の後、先生方を福岡空港へお送りし、夕刻の便で成田に向かっていただきました。当日、成田で前泊の後、翌9月15日(土)朝の便でスイスとオランダにそれぞれ無事帰国されました。

 今回、日欧リウマチ外科交換派遣医の先生方を受け入れさせていただきましたが、福岡地区の訪問を振り返りますと、短期間ではありましたが、リウマチ外科に関する密度の濃い情報交換が出来、非常に有意義でした。翌日から2日間九州リウマチ学会があり、私は主題:リウマチ手の外科の座長を務めましたが、Dr. Schindeleの書いた伸筋腱再建手技に関する総説がとても参考になりました。生物学的製剤時代のリウマチ治療は臨床的寛解・改善だけでなく機能的寛解・改善を目標とします。健常人と変わらぬADL・QOLを獲得するためにはそれに応えることのできるリウマチ外科手術の発展も必要です。その意味でこの交換派遣医制度は非常に有用であり、是非継続下さることを希望するとともに、ご企画くださった日本リウマチ財団に厚く御礼申し上げます。