国際学会報告

 

   

 

 

日本リウマチ財団ニュース155号に掲載しております「妊娠とリウマチ学会」のロングバージョンです。

 

妊娠とリウマチ性疾患に関する国際会議

 

10th International Confarence on Reproduction,

Pregnancy and Rheumatic diseases 学会報告

 

 


ベルンの美しい街並み


小井圡 彩子 

 聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center

責任編集:岡田 正人

医療情報委員会委員/聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center


 2018年9月27日から29日かけてスイスのベルンで開催された。参加人数は数百人の小規模の学会ではあるが、膠原病疾患関連のリプロダクティブ・ヘルスに特化して学ぶことのできる貴重な機会であった。この場を借りて皆様にご報告させて頂く。

 

 

▶ 患者カウンセリングの重要性

 冒頭では妊娠前の患者カウンセリングの重要性が説かれた。患者は家族計画に関する十分な情報にアクセスし難く、さらに痛みやQOLの低下によるsexual activityの低下、妊孕性の低下、流産や死産、子供を持つことを諦める傾向にあるなど、様々な要因により膠原病疾患ではFamily sizeの低下があることが言われている1)。また膠原病疾患患者において、催奇形性のある薬物の処方にも関わらず、8%しか有効性の高い避妊法の使用がないとの報告2)もあり、避妊法の情報提供の必要性に関しても大きく取り上げられた。
 意図しない妊娠は疾患活動性が高い、あるいは催奇形性のある薬物使用下で判明することも多く、その後の妊娠転帰に影響を及ぼし得る。
 妊娠前のカウンセリングでは、母体への影響として妊娠合併症や原疾患の増悪のリスク、妊娠による母体死亡の可能性に関して、また胎児への影響として、流産、子宮内発育遅延、早産、新生児ループスなどのリスク評価が必要である。患者の興味関心としては妊娠中および授乳中の薬物使用に関することが最も多いが、個々の薬物の催奇形性などを説明する前に、薬物使用とは関係なく、健常人でも3-5%の先天奇形が起こりうることを説明しなければならない。また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病疾患では産褥期に増悪を認めることがあり、増悪時は薬物使用と授乳に関して相談する必要がある。

 

 

▶ 関節リウマチ(RA)における妊娠出産

 オランダのRadbound Dolhain氏による関節リウマチにおける妊娠出産のアップデートである。

 

<RAの妊孕性>

 まずはRAの妊孕性に関する研究報告3)。妊娠までの時間TTP(time to pregnancy)を比較したところ、 中央値が3.0ヶ月vs 7.0ヶ月(P=0.001)とSLEがRAよりも1.91倍妊娠しやすい(95% CI:1.27-2.88)ことがわかった。母体の年齢が高いことや、薬剤使用。QOL評価の身体機能における低値などが影響している可能性が考えられた。
 また、アンケートによる横断研究ではRAでは説明のつかない不妊症が一般人口よりも多く経験されている(46%)ことが示された。不妊症のエピソードを訴える患者では、NSAIDsの使用が多く、妊孕性に影響している可能性が指摘されている。ただし、不妊治療の結果妊娠に至った症例は一般人口と比較し同等以上であった4)


<妊娠期間中のRA増悪>

 RAは妊娠中に疾患活動性が改善するとの認識があったが、最近の前向き研究では、妊娠中に改善が得られるのは40-70%であり5-8)、寛解が得られるのは16-27%に過ぎず、妊娠第3期でもおよそ半数の患者で疾患活動性があることがわかっている5,7)
 van den Brandt Sらによる妊娠中のRA増悪のリスク因子に関する解析9) では、29%の患者で妊娠中に増悪がみられ、疾患活動性が高いことおよび妊娠早期でのTNF阻害薬中止がリスク因子(相対リスク 3.33 (95% CI 1.8-6.1))となることがわかった。増悪があった患者の60%でTNF阻害薬および糖質コルチコイドが開始され、第2、3期には疾患の改善が得られた。妊娠前よりTNF阻害薬を使用していないRA患者では、妊娠中も継続可能な抗リウマチ薬が使用されていることがほとんどで、妊娠前および妊娠中も疾患活動性が安定していた。
 また、Ince-Askanらは、妊娠中の低疾患活動性あるいは寛解に関わる因子について解析している10)。本研究では妊娠第1期におけるDAS28-CRP-3(患者による全般評価を除く)とプレドニンの使用、自己抗体(RF、ACPA)の存在が妊娠第3期における低疾患活動性 (DAS28-CRP-3 <3.2) および寛解と負の相関を示すことがわかった

 

<RAの妊娠転帰に関する研究>

 またSmith CJFらは、早産に関するリスク因子の検討をしており11)、RAでは早産の相対リスクが2.09 (95% CI 1.50-2.91) であった。活動性のRA(ベースラインで患者スケール>3.7)では早産の調整リスク比が1.58 (95% CI 1.10-2.27)、また疾患活動性とは独立してステロイド使用(容量は記載なし)で約2倍に早産が増えることがわかった。
A Zbindenらの研究でも12)、DA28-CRP>3.2の中等度以上の疾患活動性早産が増える(オッズ比 3.9, 95% (CI: 1.25-12.15))ことが示された。


<児への影響>

 RA患者での妊娠中のTNF阻害薬が産後乳児に与える影響をみたVinet Éらの研究では13)、出生後12ヶ月までの重症感染症の発生頻度に関して検討した。TNF阻害薬を使用しないRA患者と非RA群の児では、重症感染の発生率は2.0%(95% CI 1.5-2.6 ) vs 1.9% (95% CI 1.9-2.2)とほぼ同等であったが、TNF阻害薬使用RA群では3.2% (95% CI 1.5-5.6)と増加する傾向がみられた。
 ただし、多変量解析では、非RA群とTNF阻害薬非使用群との比較(それぞれオッズ比1.7, 95% CI 0.8-3.7、オッズ
比 1.4, 95% CI 0.7-2.8)で有意差を認めなかった。

 

 

▶ 全身性エリテマトーデス(SLE)における妊娠

 Clowse氏によるSLEにおける妊娠出産のレビューコースである。SLE患者においては、妊娠中の原疾患増悪が大きな問題になるが、のべ385名の妊娠患者の前向きコホートPROMISS studyでは、妊娠中のSLEの増悪の可能性は低いものの増悪が起こると妊娠転帰が悪くなる可能性が示唆された14)。妊娠20-23週の間に2.5%に重症のSLE増悪を認め、妊娠転帰悪化のリスクが6倍になることがわかった。また同様に妊娠32-35週では、重症SLE増悪は3%あり、妊娠転帰悪化のリスクが10倍にも高まることがわかった。また、妊娠中の腎炎の発症、再燃に関しては2.4%(9例)に認めた。
 また、Tedeschi らの報告では、SLE患者147回の妊娠において、14例で活動性の腎炎が生じた。うち6例は妊娠前6ヶ月以内に活動性の腎炎を生じ、他6名は過去の腎炎の既往があった。2例(1.4%)ではこれまでに腎炎の既往がなかった。この報告では、妊娠前6ヶ月間の各臓器(血液異常、腎炎、皮膚症状、関節炎、漿膜炎)の活動性の有無が妊娠中の各臓器の活動性のリスクとなりうることが示されている15)
また、妊娠中のSLE増悪のうち、低補体血症と抗dsDNA抗体の上昇を伴うものが胎児死亡、早産、在胎不当過小SGA(small for gestational age)児など妊娠転帰の悪化のリスクとなることがわかった16)。さらに、ループス腎炎の既往のある患者での妊娠転帰を分析した複数の研究から、妊娠中に活動性の腎炎を有する症例では胎児死亡や、早産が増えることが示された17,18)
Fischer-Betzらによると、妊娠希望でカウンセリングに訪れたループス腎炎患者(6ヶ月以上クレアチニン正常、蛋白尿1g未満、細胞性円柱なしを満たす)で、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)による治療から催奇形性のためイムラン(AZA)に変更した群(group1)とAZAを継続した群(group2)で追跡したところ、group1では変更3-6ヶ月以内に3/23例(13%, p=0.14)に増悪がみられたものの、妊娠期間中には腎病変の増悪はみられなかった19)。また同報告では、妊娠合併症(流産、妊娠高血圧腎症、早産)のリスク因子として、ベースラインのプレドニゾロンの使用(オッズ比 2.02 (95% CI 1.19- 3.44))、疾患活動性高値(SLEDAI)(オッズ比 3.92 (95% CI 1.18, 13))、 母体の年齢(オッズ比1.31 (95% CI 1.02, 1.68))などがあった。
 ここまでの報告を踏まえ、Clowse氏は妊娠中も継続可能な薬剤を用いること、疾患活動性が落ち着いているときに妊娠することの重要性を再度強調した。ただし、これらは言うは易く行うは難しであることも事実である。患者の30-50%は予期せぬ妊娠で来院する。好ましい状況下とは異なる、想定しない妊娠には、医師と患者、患者に関わる医師間の意見の相違など、様々な事項が影響している。
 患者は挙児希望が強いと妊娠時の母体のリスクを看過しがちであるという。反対に、医師は母体の健康を優先する傾向にあり、よりオープンにこの問題に関して議論する必要があると氏は述べる。また医師の知識不足も一因となっている。避妊法としてIUD(子宮内避妊器具)など有効性の高い避妊法の知識がなく、コンドーム(失敗率18%)やプロゲスチン注射製剤(失敗率6%)(アメリカ疾病予防管理センターホームページより)を推奨している医師も多いという。 また、免疫抑制剤使用中の子宮内避妊器具の使用が禁忌との誤解により、適切な避妊法が使用されない事例があるとのことであった。
 最後にClowse氏は全ての妊娠可能年齢の女性に、”Woud you like to become pregnant in the next year?”と問おうとの提言を掲げた。またDuke大学の患者向け教育プログラムHOP・STEPを紹介した。これは誰でも無料で閲覧できるプログラムであり、このように様々なツールを利用し、よりよい診療およびアウトカムを目指すべく参加者に呼びかけがなされた。

 

 

▶ 最後に

今回の学会ではRAやSLEの他にも、妊娠授乳中の母体への薬物使用はもちろん、抗リン脂質抗体症候群や先天性心ブロックなど各疾患の講義や、男性への薬物使用、避妊法に渡るまで話題が多岐に渡っていた。リプロダクティブ・ヘルスは膠原病領域でも最近注目を集めている分野の一つであり、ぜひ日本からも今後参加者が増えることを期待している。

 

 

出典

  1.  1)Østensen M: Nat Rev Rheumatol 13(8); 485-493, 2017
     2)Birru Talabi M, et al: Arthritis Care Res(Hoboken) Aug 14, 2018
     3)Götestam Skorpen C, et al: Rheumatology(Oxford) 57(6); 1072-1079, 2018
     4)Brouwer J, et al: Arthritis Care Res 69(8); 1142-1149, 2017
     5)Barrett JH, et al: Arthritis Rheum 42(6); 1219-1227, 1999
     6)Nelson JL, et al: N Engl J Med 329(7); 466-471, 1993
     7)de Man YA, et al : Arthritis Rheum 59(9); 1241-1248, 2008
     8)de Man YA, et al : Ann Rheum Dis 69(2); 420-423, 2010
     9)van den Brandt S, et al: Arthritis Res Ther 19(1); 64, 2017
     10)Ince-Askan H, et al: Arthritis Care Res(Hoboken) 69(9); 1297-1303, 2017
     11)Smith CJF, et al: Arthritis Care Res(Hoboken) Aug 21, 2018
     12)Zbinden A, et al: Rheumatology(Oxford) 57; 1235-1242, 2018
     13)Vinet É, et al: Arthritis Rheumatol 70(10); 1565-1571, 2018

  2.  14)Buyon JP et al. Ann Intern Med. 2015 Aug 4;163(3):153-63.
  3.  15)Tedeschi et al. Lupus. 2015 October ; 24(12): 1283–1292.
  4.  16)Clowse ME et al. J Rheumatol. 2011 Jun;38(6):1012-6.
  5.  17)Rahman FZ. Arch Gynecol Obstet. 2005 Mar;271(3):222-6.
  6.  18)Wagner SJ et al. Lupus. 2009 Apr;18(4):342-7.
  7.  19)Fischer-Betz et al. Rheumatology 2013;52:1070 1076


早朝の交流散策会で訪れたアインシュタインハウス

 

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