関節リウマチ

 


国立成育医療研究センター 母性医療診療部(母性内科)
妊娠と薬情報センター
村島温子

 使っているお薬が赤ちゃんに影響するのではないかしら、
 妊娠中に関節リウマチが悪化したらどうするの、
 産後関節リウマチが悪化したらどうしよう、

  妊娠を希望する関節リウマ
チ患者さんを多く診療する中で、皆さんの心配が共通していることが
 わかりました。

妊娠中のお薬の安全性に関する考え方(総論)
 

 お薬の赤ちゃんへの影響は、催奇形性(妊娠初期(14週未満))と胎児毒性(妊娠中期以降)とに分けて考えます。

 まず、催奇形性についてです。あなたのまわりに生まれながらに心臓に問題があって手術をした人はいませんか?これらを含めて、赤ちゃんの100人に3人は、生まれながらに異常を持って生まれてくるといわれています。お母さんが妊娠中、お薬を使わず、放射線も浴びず、病気をしなくても3%ぐらいは自然に発生するのです。催奇形性のあるお薬というのは奇形の頻度が自然の3%より明らかに高いものを指します。

 ではどうやって判断しているのでしょうか。妊娠中Aというお薬を使用しても安全ですよ、という証明は妊婦さんをAというお薬を飲むグループと飲まないグループに分けて、奇形の発生率を比較しなければなりませんが、そんなことは倫理的(道徳的)に不可能です。そのため、たまたまAというお薬を使用した人たちから生まれた赤ちゃんを集めて解析して、使用しなかった人から生まれた赤ちゃんに比べて奇形の赤ちゃんが多かったかどうかを判断するのです。でもこのような研究さえ無いお薬がほとんどです。

 病院やクリニックで処方されるお薬、薬局で買えるお薬ともに添付文書という注意書きがついています。その中に「妊婦・授乳婦の使用について」という項目があります。ほとんどのお薬で「妊娠中の使用に関する安全性は明らかになっていないので有益性が上回るときのみ使用のこと」とか「動物実験で催奇形性を認めたので妊婦には使用しないこと」などと書かれていて「妊娠中も安全ですから使用してください」と書いてあるお薬はまずありません。

 胎児毒性という言葉を初めて見たという方が多いと思います。奇形、すなわち形の異常には結びつかないが赤ちゃんの成長に毒となることをいいます。

 

関節リウマチでよく使うお薬について(各論)
  1.非ステロイド抗炎症薬(NSAIDS)

 NSAIDsと略しますが、この種類のお薬では催奇形性はないものと考えてよいと思います。しかし、胎児毒性について注意が必要です。妊娠後半(特に妊娠28週以降)に、このお薬をたくさん飲むと、赤ちゃんに色々とよくないことがおこる可能性が出てきます。私は痛いときだけたまに飲むくらいはよいかなと思っていますが、お薬の説明書には避けることと書かれていますから、1錠でもやめなさいと主治医に言われたのならそちらのほうが正しいことになります。最近の湿布薬にはNSAIDsが入っているものが多いので調剤薬局で妊婦さんとわかると「使ってはだめです」といわれます。湿布から吸収される量はごくわずかですので、1-2枚なら良いのではと思うのですが、最近、10枚前後のNSAIDs入り湿布薬を毎日貼っていたお母さんから生まれた赤ちゃんに副作用が出たという報告が複数出されました。
   
  2.副腎皮質ステロイド

 これは関節リウマチ患者さんに限らず膠原病や重症な気管支喘息の患者さんなどで使用されています。関節リウマチに使うくらいの量であれば催奇形性については問題にしなくてもよいと思います。胎児毒性についてはまだ、結論は出ていませんが、赤ちゃんへの影響を最小限にするためプレドニゾロンを使用することになっています。プレドニゾロンはほとんどが胎盤でその効力を失うので赤ちゃんにほとんどいかないからです。このことはどの医師もわかっていますので心配は無用です。

   
 

3.抗リウマチ薬

  妊娠にトライする前に抗リウマチ薬を中止すべきかどうかですが、妊娠中のお薬が絶対に安全だという証拠がない限り、飲みながら妊娠しても大丈夫ですよとはなかなか言えません。でも、薬をやめてから妊娠しようと思っても、思うように行かないことが多いです。妊婦さんでの使用経験から赤ちゃんへの影響はないかあっても少ないだろうと考えられている以下の抗リウマチ薬については、妊娠反応が陽性になるまでの使用は許されると思っています。使用経験から根拠のあるスルファサラジン(アザルフィジン)、タクロリムス(プログラフ)、TNF阻害薬(レミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®など)、金製剤(シオゾール)、日本で開発された薬物であるブシラミン(リマチル)です。ただし、これらのうち、タクロリムス(プログラフ)と金製剤(シオゾール)は日本の添付文書では「妊娠中は使用しないこと」となっていますので、妊娠希望の患者さんに使わない医師が多いと思います。

 妊娠反応が陽性になるまで薬物の使用が可能と考えた根拠は次のとおりです。受精から14日間(本によって18日間との説明もある)は「全か無か」の時期といわれています。この時期に受精卵が薬物などから有害な影響を受けた場合には受精卵は着床しないかまたは流産の結果となり、逆に流産にならなかった場合には奇形の形で影響が残ることはないと考えられています。すなわち、月経予定日になっても月経が来ない場合には妊娠反応をして、陽性に出たら中止するという方法で間に合うことになります。この考え方は医師によってさまざまだと思いますので、ご自分の主治医とよく相談してください。

 男性側が使用したお薬が赤ちゃんにどう影響するかをはっきりさせるのは非常に難しいのですが、男性側が使用した薬剤が原因で赤ちゃんに異常が現れるという科学的根拠は示されていません。メトトレキサートの添付文書には男性の場合も「使用を中止してから少なくとも3ヶ月間は妊娠を避けるように注意すること」となっていますが、このあたりの解釈は非常に難しいので、後述する「妊娠と薬情報センター」に相談することをお勧めします。

 

妊娠中、産後に関節リウマチは悪化するか、した場合の対応について
 

 妊娠中は過半数の患者さんでよくなるが、産後は過半数の患者さんで悪化するということになっています。12年間という長い期間での調査では、妊娠した方がリウマチの進行を遅らせることができたという結果が得られています。妊娠中に悪化した場合は、副腎皮質ステロイドの内服で乗り切るのが一般的ですが、関節注射やエンブレル®の再開もひとつの手です。活動性が高いまま妊娠すると妊娠中に軽快しにくいというデータもあり、こういう点からも抗リウマチ薬を賢く使って病気を抑えてから妊娠してください。

 

育児、授乳と薬について
 

  前にも述べましたように、妊娠中に落ち着いた関節リウマチが産後に再び勢いを増してくることが多いのは確かです。

 母乳とお薬についても悩めるところでしょう。母乳はお母さんと赤ちゃんとのスキンシップ以外にも効用がいろいろとあります。しかし、お薬の説明書には「乳汁中に薬剤が分泌されるので使用する場合は母乳を中止してください」というように書かれています。おっぱいをあげなくてもミルクという代用品があるので、確実なことが言えない以上、母乳を中止してしまえば良いという発想です。しかし、母乳中に出たお薬も赤ちゃんの胃や腸から吸収されないと赤ちゃんにとってはなんともないものになります。ですから母乳中のお薬の濃度ではなく、赤ちゃんの血液中の濃度を知りたいところですが、そのようなデータがあるのはわずかな薬物に限られます。

 抗リウマチ薬の多くは遅効性といって開始してから効果が出るまで時間がかかります。そういう点で注射薬の生物学的製剤はすぐに効きますし、おっぱいをあげられますので、産後の悪化時に頼れる存在です。高価なのが難点ですが、他の抗リウマチ薬の効果が出るまでと割り切って使用したらいかがでしょうか。

 痛み止めや胃薬も同様に「飲むならおっぱいをあげないように」となっていますが、少なくとも臨時に飲む場合は気にしなくて良いと思います。詳しいことを知りたい方は、「妊娠と薬情報センター」のホームページにおっぱいをあげていても飲める薬を表に載せてありますのでご覧下さい。

 

妊娠と薬情報センター

 関節リウマチ患者さんに限らず妊娠中の薬物使用について悩んでいる女性や医師はたくさんいます。そのような方々に最新で確かな情報を提供すること、相談された方の妊娠結果を教えていただいてそのデータをまとめて安全性について評価すること、このふたつを目的に厚生労働省の事業として「妊娠と薬情報センター」が2005年開設されました。ご相談を受け付けていますのでご利用下さい。相談方法はホームページをご覧ください。
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html

 また、抗リウマチ薬の妊娠への影響について明らかにすべく、登録調査を開始しました。妊娠した方がいらっしゃいましたらお電話でご連絡いただければ幸いです。
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/news/ra.html

 

 
【情報更新】平成25年7月

   
   
   
 

 

 


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