関節リウマチの治療 - 薬物療法
関節リウマチの治療 – 薬物療法
JAK阻害薬
- JAKとは
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細胞の外から様々な刺激を細胞内に伝えるために働く酵素群はキナーゼと呼ばれ数多くの種類が存在します。このうちのひとつで、細胞の中でサイトカイン受容体に結合し、サイトカインによる刺激を伝える重要なキナーゼがヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)で、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があります。
腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン-6(IL-6)といった炎症性サイトカインは、細胞の表面にあるサイトカイン受容体に結合することにより細胞に刺激を与えますが、その刺激は細胞内に伝わって細胞の中心にある核に到達します(図)。その結果、核内ではDNA合成が盛んに行われ、細胞を増やしたり、炎症性サイトカインなどの様々な物質を作ります。
関節リウマチでは、炎症が起きている関節内に白血球など免疫に関与する細胞が多数みられますが、過剰に産生された炎症性サイトカインがこれらの細胞を過剰に活性化して炎症を引き起こしています。JAK阻害薬は、JAKに結合してJAKの働きを止めることによって細胞の過剰な活性化を抑え、炎症性サイトカインの産生を抑制して関節リウマチの炎症を制御します。図.JAK阻害薬
令和5年1月更新
- 生物学的抗リウマチ薬とJAK阻害薬はどう違うか
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生物学的抗リウマチ薬は、例えばエンブレル(エタネルセプト)はTNF、アクテムラ(トシリズマブ)はIL-6といったように、それぞれの薬剤が1種類の特定のサイトカインを細胞の外でブロックすることにより、細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにします。これに対してJAK阻害薬は、複数の種類のサイトカインに対して、サイトカイン受容体からの刺激を細胞のなかで遮断して炎症を抑えます。また、生物学的抗リウマチ薬が注射剤で、週1〜4回間隔を空けて投与されるのに対して、JAK阻害薬は毎日内服する経口薬です。
令和5年1月更新
- どのようなときに使用するか
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メトトレキサートなどの抗リウマチ薬が効果不十分な場合には、生物学的抗リウマチ薬、もしくはJAK阻害薬が用いられます。現時点では、JAK阻害薬よりもまず生物学的抗リウマチ薬の方を優先的に検討するのが良いとされています。JAK阻害薬は、TNF阻害薬などの生物学的抗リウマチ薬が効果不十分な場合にも用いられ、多くの場合有効であると報告されています。JAK阻害薬開始前には、現在および過去の結核やウイルス性肝炎などの感染症の有無、肝臓や腎臓の機能などについての検査を行います。副作用を明らかにするため、これまでに発売されたすべてのJAK阻害薬で全ての患者さんに対する市販後調査が行われています。日本リウマチ学会によるJAK阻害薬の全例市販後調査のためのガイドラインでは、十分量のメトトレキサートを3カ月以上継続しても効果が十分でない活動性の関節リウマチに対して投与することが推奨されており、感染症の危険性が高い、腎機能障害・間質性肺炎などで安全性の面からメトトレキサートが使用できない場合には原則として投与しないことが望ましいとされています。JAK阻害薬は、単剤もしくはメトトレキサートとの併用で用いられます。妊娠中や妊娠を希望されている場合には服用することはできません。
令和5年1月更新
- JAK阻害薬の特徴
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JAK阻害薬は、関節リウマチによる関節の腫れや痛みなどの炎症を抑える作用があり、その効果は生物学的抗リウマチ薬とほぼ同等かそれ以上とされています。また、関節破壊の進行を抑える作用も生物学的製剤と同様に認められています。副作用としては、感染症(結核、帯状疱疹、肺炎、敗血症などの重篤な感染症を含む)、肝機能障害、白血球の減少、貧血、消化管の穿孔、血液中のコレステロール値の上昇などがみられることがあります。感染症が起こる率は生物学的抗リウマチ薬と同じ程度とされていますが、帯状疱疹に関してはJAK阻害薬治療中に特に起こりやすいことがわかっているため注意が必要です。帯状疱疹では、皮膚のビリビリする痛みや小さい水疱の集まりがみられますので、これらの症状があれば早めに医療機関を受診する必要があります。また、50歳以上の患者さんを対象にした試験で、一部のJAK阻害剤ではTNF阻害薬を使う場合よりも悪性腫瘍が多い可能性が指摘されていますので、悪性腫瘍の既往がある患者さんや家族歴がある患者さんでは慎重に使用を考慮することが望ましいです。JAK阻害薬は現在5種類ありますが、効果や副作用には大きな違いはないと考えられています。但し、腎臓や肝臓の悪い場合や、他にいろいろな薬剤を併用している場合は、薬剤の選択に注意が必要です。
令和5年1月更新
- JAK阻害薬の種類
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ゼルヤンツ(一般名トファシチニブ)
2013年7月に発売された最初のJAK阻害薬です。JAK1,JAK2,JAK3のすべてを阻害します。ゼルヤンツは、過去の治療においてメトトレキサート(リウマトレックス、メトレートなど)をはじめとした少なくとも1剤の抗リウマチ薬による適切な治療を行っても効果が不十分な場合に、1回5mgを1日2回内服します。中等度又は重度の腎機能障害や中等度の肝機能障害がある患者さんでは5mg1日1回とします。肝臓の酵素で代謝されますので、同じ酵素で代謝される他の薬剤との併用ではお互いの副作用が出やすくなりますので、併用薬には注意が必要です。
オルミエント(一般名バリシチニブ)
オルミエントは2017年9月に発売された2番目のJAK阻害薬です。オルミエントはJAK1とJAK2を特に強く抑えるところが作用としてゼルヤンツと異なる点です。通常はオルミエント錠4㎎を1日1回内服しますが、この薬剤は腎臓から排出されるため、腎臓の機能が低下している場合には1日1回2mgに減量する必要があり、また重度の腎機能障害がある場合(GFRが30未満や透析中)には使用することができません。効果が認められた場合には2mg1日1回に減量することができます。
スマイラフ(一般名ペフィシチニブ)
スマイラフは日本で創製、開発され、2019年7月に発売された3番目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2の4つ全てのJAKファミリーを阻害します。ニコチンアミドNメチル転移酵素という特有の酵素で代謝されますので併用薬にはあまり注意する必要はありません。腎機能障害患者さんに対する用量の制限もありません。通常はスマイラフ錠を150mg1日1回服用しますが、患者さんの状態によっては100mgで使用することもあります。しかし中等度の肝機能低下が認められる場合は50mgに減量する必要があり、重度の肝機能低下が認められる場合には使用する事ができません。
リンヴォック(一般名ウパダシチニブ)
リンヴォックは、2020年4月に発売された4番目のJAK阻害薬です。この薬剤はJAKのなかでJAK1を強く阻害するため、JAK1選択的阻害薬といわれていますが、基礎的研究ではJAK2の阻害作用も比較的強い、という成績があります。臨床試験において、メトトレキサートとの併用でひとつのTNF阻害薬に優る有効性が報告されています。肝臓の酵素で代謝されますので、同じ酵素で代謝される他の薬剤との併用ではお互いの副作用が出やすくなりますので、併用薬には注意が必要です。通常は15㎎を1日1回投与しますが、体重の少ない患者さんや肝機能障害がある患者さんなどでは、7.5㎎1日1回で投与することもあります。
ジセレカ(一般名フィルゴチニブ)
ジセレカは、2020年11月18日に発売された5番目のJAK阻害薬で、JAK1選択的阻害薬です。他のJAK阻害薬同様メトトレキサートなどの既存治療で効果不十分な関節リウマチが適応となります。
体内でカルボキシエステラーゼという特有の酵素によって代謝されますので、併用薬にはあまり注意する必要はありません。しかし、活性のある代謝物の大半が尿中に排泄されますので腎機能障害のある方では用量の調節が必要です。用法用量は200 mgを1日1回投与するのが基本ですが、腎機能が低下した患者さんでは減量します。重度の腎機能障害がある場合(GFRが30未満や透析中)には使用することができません。令和5年1月更新