国際学会報告書

 

   

 

 

日本リウマチ財団ニュース162号に掲載しています「欧州リウマチ学会(EULAR) 2020学会速報 」のロングバージョンです。

 

 

欧州リウマチ学会(EULAR) 2020学会速報

 


 

田巻 弘道 

聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長

 

 

責任編集:岡田 正人

医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長


EULAR2020は、2019年本来はドイツのフランクフルトで2020年6月3日から6日までの4日間で行われるはずであったが、COVID19の影響のため、初の試みとしてオンラインで開催されることとなった。EULAR E-Congressのライブセッションは元々の開催日と同じく6月3日から始まった。当初はライブセッションにつなぐのも困難であったり、質問をしても発表者がオフラインになっていたり、スライドが適切に表示されないというトラブルもあったが、会期も進むにつれ徐々にそういった問題も解決していった感がある。オンラインでの開催には賛否があり、元来であれば出席不可能な人々も参加できる、同時間帯のセッションでも両方に参加可能というメリットがあった一方で、現地で何も邪魔されずカンファレンスに集中できた方がよい、トップの研究者やポスター発表者と直接話をできるチャンスがあった方がよいという意見も見られた。今回のEULARの発表の中から、筆者が独断と偏見で今後の日常診療に直結するような内容を幾つか取り上げる。

 

 

1.EULARの推奨 

今回のEULAR推奨では、昨年に既に発表された関節リウマチの推奨(https://ard.bmj.com/content/79/6/685)や乾癬性関節炎に関する推奨(2020年7月号のリウマチ財団ニュースを参考)があった。誌面の都合上、Publishされていない推奨から2つ紹介する。ひとつはライフスタイルに関する推奨である。診療の中で生活指導はとても重要であると認識されている方は多いかと思う。リウマチ性疾患に関する生活習慣に関しての推奨が発表された(表1)。常識的な内容であったが、今後更に研究が積み重ねられ、生活指導もより科学的な根拠に基づくようになっていく第1歩であると考えられる。 もう一つは、関節注射に関する推奨である(表2)。リウマチ性疾患診療で重要な部分を占めるが、生活習慣と同様に公式の推奨がなかった。抗凝固が禁忌ではない、関節注射後は関節を使いすぎないようにする、糖尿病患者では血糖値の上昇が見られることがあるので気をつけるといった日常診療で気をつけてきた点が明文化されている。また、患者との共同意思決定が重要であり、その点が強調されている。

 

 

表1   EULAR リウマチ性疾患の進行を防ぐためのライフスタイル推奨

EULAR eCongress2020 SAT Live session EULAR recommendations 2020

 

表2   EULAR推奨 関節内注射

 

EULAR eCongress2020 SAT Live session EULAR recommendations 2020

2. 個人的にインパクトが大きいと思われる臨床試験の結果

●ADVOCATE(第III相試験ランダム化二重盲検試験)(EULAR Econgress OP0011より)

ANCA関連血管炎の寛解導入で、ステロイド+リツキシマブ/シクロフォスファミドの標準療法に対して、ステロイドの代わりにアバコパン(C5a受容体阻害薬)で寛解導入が同様にできるかを評価した。アバコパンは寛解(Birmingham Vasculitis Activity Scoreがゼロかつステロイド内服なし)導入率において、標準療法と比較し26週で非劣性(アバコパン群72.3%、プラセボ群70.1%)、52週で優勢(アバコパン群65.7%、プラセボ群54.9%)を示し、有害事象でも目立ったものはなかった。今後のANCA関連血管炎の加療においてステロイド投与なしとなる日も近いことを印象付けた。

 

●BLISS-LN(第III相試験ランダム化二重盲検試験) (EULAR Econgress OP0164より)

III型、IV型、V型のループス腎炎では臨床試験で証明された有効な治療薬が最近なかなか出てこなかったが、Bリンパ球刺激因子阻害薬であるベリムマブが結果を出した。エンドポイントであるPrimary Efficacy Renal Response(PERR) は尿中蛋白クレアチニン比(uPCR)≦0.7かつeGFRが増悪前の20%より悪くなっていないあるいはeGFR≧60で治療の失敗がないと定義され、complete renal response(CRR)はuPCR<0.5かつeGFRが増悪前の10%より悪くなっていないあるいはeGFR≧90で治療の失敗がないと定義される。主要評価項目である104週のPERRは標準治療+ベリムマブ群では43%、標準療法+プラセボ群では32.3%で統計学的に有意に差があった。104週のCRRもそれぞれ30%と19.7%でベリムマブ群が有意に高かった。

 

●全身性エリテマトーデス(SLE)でのミコフェノール酸モフェチル(MMF)の漸減 (EULAR Econgress OP0167より)

関節リウマチでは多くの薬剤の減量、中止の臨床試験が行われてきたが、SLEではまだその数は少ない。今回、アメリカのグループから病勢が落ち着いているSLE患者で、MMFを腎炎であれば2年以上、腎炎以外の場合は1年以上内服している患者をMMFを離脱あるいはMMFを継続する2群に非盲検下にランダムに分け60週間経過をフォローした試験である。102名がランダム化され、50名が継続、52名がMMFを漸減終了した。臨床的に意義のある病気の増悪が維持群で10.2%、漸減終了群で17.6%であった(カプランマイヤー法での臨床的意義のある病気の増悪のリスク差は0.07[95%信頼区間:-0.068, 0.214])。病気増悪までの時間は両群で38週であった。長期にわたりSLEの病勢が落ち着いている患者では、MMFの減量中止を考慮しても良さそうであるという結果が得られた。

 

●SELECT-CHOICE (EULAR Econgress SAT0151より)

関節リウマチに対して使用可能なJAK阻害薬は日本では現時点で4剤手に入る。この試験では、もっとも最近承認されたウパダシチニブ(UPA)をアバタセプト(ABA)をランダム化二重盲検法で比較した。生物学的製剤抵抗性の中等度から重度の関節リウマチ患者を2群に分け、背景としてcsDMARDs(従来型合成抗リウマチ薬)を併用した上で比較した試験である。プライマリーエンドポイントである12週時点でのDAS28-CRPベースラインからの変化の非劣勢は達成されたのみならず、ウパダシチニブの方で優勢であった (UPA群 -2.52 vs ABA群 -2.00; P<0.001)。DAS28-CRPの寛解を達成した患者はUPA群で30%、ABA群で13.3%であり有意(P<0.001)にUPA群で多かった。また、12週でのACR20, 50, 70もUPA群で76%, 46%, 22%に対し、ABA群では66%, 34%, 14%であり、それぞれ統計学的にも有意差がついた。その一方で、24週でのACR20, 50, 70はUPA群で79%, 59%, 37%に対して、ABA群では74%, 50%, 27%でありACR50と70では統計学的な有意差はついたが、ACR20ではつかなかった。有害事象に関しては、UPAの方が多い印象であり、肝障害(UPA 23件 vs ABA 5件)、グレード3/4のリンパ球減少(UPA 45件 vs ABA 26件)、日和見感染(UPA 4件 vs ABA 1件)、重篤な有害事象(UPA 10件 vs ABA 5件)、グレード3/4のCK上昇(UPA 3件 vs ABA 0件)であった。ウパダシチニブの即効性、効果の良さが見て取れるとともに、アバタセプトの効果、安全性に関しても見て取れる試験であった。

 

●全身性強皮症に対するRomilkimabの効果 (EULAR Econgress OP0250より)

全身強皮症は現時点で有効な薬物用法には限界がある疾患であり、更なる薬物療法の開発が求められている疾患の一つである。IL-4はTh2への分化を促進し、Th2細胞はIL-4とIL-13の産生の主たる細胞である。IL-13はProfibroticマクロファージを活性化させTGFβ産生を促し繊維芽細胞から筋繊維芽細胞への分化を誘導し組織修復と繊維化に関与する。また、IL-13そのものも繊維芽細胞の筋繊維が細胞への分化を促進する。RomilkimabはIL-4とIL-13の阻害薬であり、今回はびまん皮膚硬化型の全身性強皮症で発症から36ヶ月以内の患者で第2相のランダム化二重盲検試験が行われた。24週時点でベースラインからのmodified Rodnan Skin Score (mRSS)の変化はプラセボ群で-2.45、Romilkimab群で-4.76であり、差は-2.31(90% 信頼区間:-4.32, -0.31)であり統計学的に有意であった。

 

●Emapalumab(坑インターフェロンγモノクローナル抗体)のマクロファージ活性化症候群(MAS)を合併した全身性若年性特発性関節炎(sJIA)患者への効果 

(EULAR Econgress OP0290より) Emapalumabはアメリカやヨーロッパで一次性血球貪食性リンパ組織球症(Primary HLH)で承認を受けている。同様の病態を呈するsJIAに伴うマクロファージ活性化症候群に対してEmapalumabを使用した研究である。MASは死亡率も高い合併症であり、有効性の高い治療が求められている病態である。この試験ではヨーロッパとアメリカで行われたオープンラベル単一群のパイロット試験である。完全寛解はMASの臨床症状がなく、白血球と血小板が正常下限より高く、LDH,AST, ALTが正常上限の1.5倍未満、フィブリノーゲンが100mg/dlより高く、フェリチンが80%以上低下あるいは2000ng/mL未満となると定義されている。9名に用いられ、全員が8週目までに完全寛解、4週目まででも6名が完全寛解を達成した。有害事象によるemapalumabの中止はなかった。

 

●トラマドールと全死亡率、心血管病、静脈血栓塞栓症、大腿骨近位部骨折/大腿骨頸部/転子部骨折の関連 (EULAR Econgress OP0191より)

トラマドールの変形性関節症に使用した際に、全死亡率がNSAIDsで治療されている患者と比較して上昇していることがイギリスの電子カルテシステムを使用したデータベースからの研究で報告された(1)。EULAR2020では、カナダのブリティッシュコロンビア州の全住人の健康データからの解析が報告された。プロペンシティマッチング法を用いて、ナプロキセン、ジクロフェナク、COX-2阻害薬、コデインを使用している変形性関節症患者とトラマドール使用患者を比較した。ハザード比でトラマドール群はNSAIDsと比較して有意に死亡率が高く、心血管イベントと静脈血栓塞栓症はジクロフェナク、COX-2阻害薬よりも、大腿骨近位部骨折/大腿骨頸部/転子部骨折はナプロキセン、ジクロフェナク、COX-2阻害薬と比較して有意に高かった(表3)。

 

 

その他にも様々な興味深い発表がEULARで見られた。文字数の都合上、伝えられないのが残念である。今後のより良いリウマチ膠原病疾患の治療を実現するために有益な学会であった。

 

 

 

表3  変形性関節症患者のトラマドール使用による

             1年間の様々なアウトカムに対してのリスク

 

 

 

 EULAR2020E-congress OP0191より著者作成

 

 

 

参考文献


(1) JAMA. 2019;321(10):969-982. doi:10.1001/jama.2019.1347

 

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