国際学会報告書

 

   

 

 

日本リウマチ財団ニュース156号に掲載しております「欧州リウマチ学会2019 速報」のロングバージョンです。

 

欧州リウマチ学会2019速報

 


会場となったマドリードのIFEMA。最高気温は30℃を超えたが、湿気が少ないためさほど暑さを感じなかった。


須田 万勢 

諏訪中央病院 リウマチ・膠原病内科

 

責任編集:岡田 正人

医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長


 2019 年6月12日から15日までの4日間にわたり、スペインの首都マドリードにてEULAR 2019が開催された。1万5千人以上が参加する最も参加者の多いリウマチ関連学会であり、今回も基礎研究から実臨床に直結する疾患ごとの推奨など多くの発表がなされた。その全てをご紹介することは到底不可能だが、今回参加しなかった先生方に少しでも雰囲気が伝わるようにその内容の一部をご紹介したい。

 

▶ 1.各疾患の推奨の改定

1−1.全身性エリテマトーデス(SLE)の診断、治療推奨   

 こちらは既に論文化されていたが(Ann Rheum Dis 2019;78:736–745.)、2019年に改定された治療推奨が発表された。大きな変更点としては、皮膚症状のみのSLE症状に対する治療が記載されたこと(グルココルチコイド(GC)またはカルシニューリン阻害薬の軟膏、ヒドロキシクロロキン(HCQ)+-内服GC)、抗リン脂質抗体症候群(APS)合併SLEに対する一次予防としてのアスピリンの記載が出たこと、ベリムマブの立ち位置が明確になったこと(重症度が中等度で、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などの第一選択治療に抵抗性の場合に追加する)、治療が長期にわたる場合のGC量の目標を7.5mg以下にすること、ループス腎炎でのCNIの使用の記載がされたこと(膜性腎症、podocytopathy、または3~6ヶ月の標準治療で反応が乏しい場合の2nd lineとしてMMFと併用)、治療の達成目標として、寛解と同列でLupus Low Disease Activity (Lupus LDA)が設定されたこと、が挙げられる。

 

1−2.APS   

 こちらも既報の通りであるが、(Ann Rheum Dis 2019;0:1–9.)、かいつまんで重要な点としては、APSの一次予防では、SLE合併、産科的APSの既往のある非妊娠中患者に低用量アスピリンが推奨された。また、静脈血栓歴のある患者の二次予防として、VTEがprovokedかどうか、また再発性かどうかで治療の強さの分類を行い、また動脈血栓歴のある患者でも初回か再発性かどうかで治療の強さを分類した。

1−3.大血管炎(巨細胞性動脈炎(GCA)と高安動脈炎(TA))の診断、治療推奨 

 EULAR後すぐに論文化された内容であるが(Ann Rheum Dis 2019;0:1–12 )、Updateされた点をまとめると下記のようになる。まず維持期のGCの漸減速度が明確化され、2~3ヶ月以内に15~20mg/日以下に減量、そして1年後には、GCAでは5㎎/日以内、TAでは10㎎/日以下にするよう推奨された。GCAへのトシリズマブ(TCZ)の追加治療は、治療抵抗性・再発性・GC関連の有害事象や合併症の高リスク患者に使用されるべきで、メトトレキサート(MTX)を代替として用いることも可とされた(念のため、本邦では保険は通っていない)。これらの治療薬に対する姿勢はヨーロッパとアメリカでやや異なるだろう。また、抗血小板薬のルーチンの使用は推奨されず、心血管リスクが高い人など症例を選んで適用されることが推奨された(詳細なrecommendationは表1を参照)。

 

 

 

       表1.大血管炎に対する最新EULAR recommendationのまとめ

 

(LoA: level of evidence)
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 田巻弘道先生のご好意による

 

 

1−4. 全身性強皮症(SSc)に伴う間質性肺炎(ILD)の管理推奨 

 間質性肺炎のリスクが、抗トポイソメラーゼI抗体陽性、男性、diffuse typeであること、SSc-ILD患者は全員、HRCTと肺機能検査を受けてその重症度を評価すること、重症患者はMMFやシクロフォスファミド(CyC)での治療を考慮すること、それでも不応の場合は肺移植や造血幹細胞移植などを考慮することなど、ごくごく総論的な内容にとどまった。

 

1−5.その他疾患の推奨 

 上記以外にも、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、シェーグレン症候群(SS)の治療推奨が発表された。しかしこれらの疾患の推奨は現段階ではpreliminaryであって複製も禁止ということであり、おそらく今年度のアメリカリウマチ学会などでの正式な発表になると思われる。従って本レポートに掲載するのが難しいことをご了承されたい。

 

▶ 2. 新しく発表された臨床試験の結果

 RA領域では、JAK阻害剤のウパダシチニブ(UPA)とTNF阻害剤のアダリムマブ(ADA)でそれぞれの初期治療に反応がない場合のスイッチの試験結果が発表された(OP0029)。 SELECT-COMARE試験で、ACR20達成できなかった患者を、UPA→ADA、ADA→UPAへの変更による有効性を比較。結果は、ACR20/50/70/DAS28-CRP<3.2達成者の割合は、UPA→ADA群で59%/26%/12%/35%、ADA→UPA群で75%/49%/24%/54%で、どちらの変更も有効性があった。
 SSでは、同じセッションで発表された2つのアバタセプト(ABT)の治験の結果(OP 0039、OP0045)が異なるという面白い展開となった。前者はやや長期罹患(平均罹患年数5年)かつ、他治療併用率が高い(CS 25%, HCQ 40%)患者が対象で、後者は発症早期(平均罹患年数2年)かつ他治療併用率が低い(CS 3%, HCQ 0%)がenrollされていた。結果は、どちらもprimary endpointは達成しなかったものの、後者で12週時点のESSDAIやDAS28(CRP)はABT群で有意に低値であった(実は前者でもIgGは有意に減少し、関節症状のみの解析では症状改善傾向を認めたので、リンパ球に対する抑制作用は働いたと推察される)。発症早期の特に関節症状が強い症例ではABTが有用な可能性はあるかもしれない。  
 SLEでは、難治性の患者15人にリツキシマブ(RTX)とベリムマブ(BLM)を併用したsingle arm試験の2年の長期結果が公表された。RTXを0,2,4週に、BLMを4,6,8週+以後4週間ごとに104週まで投与した。24週時点では67%の患者がLLDASを達成(=responder)し(J Autoimmun 2018; 91: 45-54.)、その大半は長期にLLDASを維持した。2年間のフォローでdsDNA抗体はすべて陰性化し、CD19陽性B細胞は平均で97%消失していた。Non-responderでは、CD27-IgD-で定義されるdouble negative (DN) B細胞のpopulationが投与12週より増加傾向を認めた。難治性SLEに対してDN B細胞の関与が示唆される結果となった。
 血管炎領域では、GCAに対するTCZ SCの効果を検証したGiACTA study (N Engl J Med 2017;377:317-28.)の3年の長期フォローの結果が発表された(OP 140)。52週の治療期間後、4群(①PBO+26週GC漸減、②PBO+52週GC漸減、③TCZ qwk+26週GC漸減、④TCZ q2wk+26週GC漸減)ともTCZは打ち切られ、施設ごとの判断で治療が調節された。52週時に寛解していた59名の患者のうち、41%は無治療でも156週時に寛解維持されていた。再発群では、いずれもTCZの再開で1~2週間以内に再度寛解した。初期治療がGCのみ群ではGCが再投与され、平均5週間で寛解した。3年間でのGC総投与量は各群で①5.2g ②5.2g ③2.9g ④3.7gであり、TCZ使用群で有意に減少が見られたほか、TCZ不使用の場合GCの漸減スピードによる長期的GC投与量の差は見られなかった。
 Late braking abstractでもいくつかの興味深い発表があった。まず、PsAに対するADA vs IXEのhead to headの結果が公表された(LB0005)。Primary endpointをACR50 + PASI100を両方満たした割合としており、確かにIXEがわずかに勝っているが(36% vs 28%)、ACR50単独では有意差なしなので、関節に関しては大きな差はなく、皮膚が悪いPsAではTNFi<IL-17という程度に考えてよいだろう。次に、PsAに対してSEKのradiographic progression予防効果が公表された。SEK 300mg, 150mg, 150mg (loading doseなし)の3群で2年後のmTSS≦0.5 (臨床的に変化がないと見做せる値)だった割合は、それぞれ89.5%, 82.3%, 81.1%と非常に高く、コントロールはないもののIL-17iの骨破壊予防効果を示唆する結果となった。また、OAに対するbiologicsのstudyは尽く失敗に終わってきたが、このたびTanezumab (神経成長因子に対するモノクローナル抗体)のOAに対するRCTの結果が公表された(LB0007)。Tanezumab 5mgはWOMAC pain score, WOMAC physical function, PGA-OAの3つのco-primary endpointのすべてにおいてplaceboを上回った。次に、RA患者にABTとADAのどちらが効くか、HLA-DRB1のshared epitope (SE)が存在するかどうかで予測する研究の結果も公表された(LB0008)。結果、SE-群では2つのbiologicsの効果に差はでなかったが、SE+群では、ACR20, 50,70, DAS28 remissionの4つのoutcome全てにおいてABT群がADA群を上回った。今後、biologicsの選択において、HLA-DRB1のSEの存在の有無が重要となる可能性がある。


 ところで、EULARでは基礎医学と臨床をつなぐトピックにも力を入れており、臨床家にもわかりやすく解説をしてくれる”Basic and Translational Science session”がある。学会二日目の夕方遅く、”Fighting and fixing: from initiation to resolution of inflammation”というセッションに参加した。中でも面白かったのは、Markus Hoffmann先生の、”Neutrophils in sterile inflammation and autoimmunity”というレクチャーだった。好中球が自らのDNAを網目状にして放出する、Neutrophil Extracellular Traps (NETs)は好中球性炎症のトリガーとして有名な所見だが、炎症を収束させる働きもある。その証拠にNETsが欠損した痛風モデルマウスでは、関節炎が収束せずにいつまでも続いてしまう。その理由が実験によりわかってきた。好中球の密度が低いと、solitary NETsという、NETs同士が独立した状態であり、これは炎症性メディエーターを活性化して炎症を促進させる。 一方で、好中球の密度が高く、NETsがある濃度以上に出ると、aggregated NETsという塊になり、neutrophil serine protease (NSP)を活性化して炎症性メディエーターを分解し、炎症を収束させる。この仕組は、感染などの初期に好中球が少ないときにはそのリクルートを行い、そして好中球が十分集まってその役割を果たしたあとにはその処理を行うという非常に合目的的なメカニズムといえよう。同じNETsという現象が、セッションのタイトルどおり炎症の開始にも、収束にも使われるという点が印象的だった。
  同じセッションで、Rene Pfeifle先生から、RAの自己抗体が自己免疫反応を開始するinitiationがなにか?というレクチャーがあった。RAは自己抗体病として知られているが、RA発症の何年も前から自己抗体は陽性化する。そしてこれらの自己抗体そのものが炎症性の役割を持つことも知られている(ACPA陽性のRA患者からとった抗体をPMBCにLPSとともに振りかけると健常者の抗体よりも炎症性サイトカインを多く産生させる)。一方、IgGのシアリル化が、IgGの炎症反応性を調節していることが知られている。RAにおいても、APCA陽性の無症候性の集団では、シアリル化率が高いほうが一年後のRAの発症率が有意に低い(Nat Immunol. 2017 January ; 18(1): 104–113.)。そこでPfeifle先生らは、このシアリル化が無症候性から症候性に進むtransition phaseの鍵だと考えた。シアリル化の調節因子として重要なのはIL-23とIL-17の軸だ。CIAモデルマウスにおいて、IL-23の欠損は関節炎を軽減させることが知られている。しかしそのマウスでも、CII-IgG (関節炎を誘発すると考えられている自己抗体)の血中濃度は野生型と変わらなかったのだ。そのIL-23欠損マウスにさらにノイラミニダーゼを入れてIgGについたシアリル酸を分解させてやると、野生型と同じくらい関節炎を起こした。これらの結果から、IL-23がIgGの脱シアリル化に必要なkey cytokineであることが判明した。その後の一連の実験より、IL-23がTh17細胞に作用するとTh17が胚中心に入り込み、Tfhフェノタイプを獲得することで、分化中の形質細胞とinteractionし、形質細胞のα2,6シアリルトランスフェラーゼ(st6gal1遺伝子でコードされる)を抑制すること、それによりシアリル化の少ない自己抗体が産生されて炎症反応を引き起こすことがわかった。個人的には、RAの発症にIL-23やIL-17が深く関わっているのに、RAを発症してからこれらのサイトカインを抑制しても効果がない理由がやっとわかって、非常に腑に落ちるレクチャーであった。臨床家も基礎医学にふれることの重要性を改めて感じた。
 その他にも個人的に興味深かったセッションは多数あり、有意義なマドリード滞在となった。今回の学会参加にご協力をいただいたすべての先生方に感謝して、レポートの結びとさせていただきます。

※日本リウマチ財団ニュースはwebでの掲載をしていますが、リ

質問をする著者。大舞台での質問経験は国際学会での発表の際に生かされる。

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